『ジョー・ストラマー・アンド・ザ・レジェンド・オブ・ザ・クラッシュ』クリス・ニーズ著
『ジョー・ストラマー・アンド・ザ・レジェンド・オブ・ザ・クラッシュ』クリス・ニーズ著
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『ジョー・ストラマー・アンド・ザ・レジェンド・オブ・ザ・クラッシュ』
クリス・ニーズ著

●第15章 ザ・ランニング・マンより

 ジョーは、レコーディング・セッションとツアーによる心身の疲労が蓄積し、切実に休息を求めていた。1981年のツアーでは、彼自身のギターにステンシルで“俺は休暇を取るかもしれない”と刷りだしてさえいた。
 翌1982年4月、彼はそれを実行に移し、19日にわたるイギリス・ツアーを目前にして姿を消した。
 
 ジョーの失踪はそもそも、ツアー・チケットの売れ行きがスコットランドで悪いことを憂慮したマネージャー、バーニー・ローズの一計だった。バーニーはジョーに、所在確認の電話を常に入れつつ、しばらく姿を隠し、その間テキサスの友人ジョー・エリーを訪ねてはどうかと持ちかけていた。

 バーニーは、ジョーが復帰すれば、注目を集めてツアー・チケットが完売する上、日付の変更を強いられたチケットの売れ行きも伸びるだろうと読んだ。

 だが、ジョーが実際に数週間消息を絶ったことにより、バーニーの思惑は外れた。それは、彼がジョーを管理できず、また、バンドがジョーを抜きにして活動できないことを露呈した。
 
 《ノウ・ユア・ライツ(権利主張)》・ツアーは、4月26日にアバディーンで開始される予定だったが、ジョーは21日に失踪した。バーニーは、『NME(ニュー・ミュージック・エクスプレス)』を通して、事態を取り繕った。

「ジョー自身の葛藤だ。つまり、社会的な関心のあるロック・アーティストが、現在のバブルガム主体の環境の中で、どういうスタンスをとるのか? 彼はおそらく、それを熟考するために姿を消したと感じている……」

 バーニーは、ジョーに大胆な失踪劇をけしかけたものの、ジョーと連絡が取れなくなり、慌てふためいた。ザ・クラッシュのツアーは、フロントマンが消息不明になったことにより、7月に延期された。

 マスコミは、「ストラマーの失踪」をルーカン伯爵の謎の失踪に見立て、騒ぎ立てた。私もその間、さまざまな噂を耳にした。例えば、ジョーがアムステルダムで暮らしている、スコットランドの川で水死体となって発見された、アフリカの奥地に行った、あるいは、マルセイユの波止場で働いているというように。

 バンドは、ジョーの所在を掴めなかったものの、彼が母親に電話を入れていたため、とりあえず無事を確認した。だが彼らでさえ、彼がいつ戻るのか、果たして戻ってくるのかどうかもわからなかった。

 ジョーが1988年にチャンネル4の『ワイアード』で語っている。
「俺がバーニーに電話しなければ、いい笑い話になると思った。つまりバーニーは、『ジョーはどこへ行ったんだ?』と芝居をするつもりでいたが、1、2週間後には、『ジョーはいったい、どこへ行った?』と血相を変えて探す羽目になるわけだから。俺はパリにいたんだ。パリ・マラソンにも参加して走った」

 側近のコズモ・ヴァイナルがようやく、ジョーの母親を口車に乗せ、首尾よく彼の隠れ家の住所を聞き出した。コズモは、ジョーを説得し連れ戻すため、5月17日に急遽パリに向かった。ジョーは、「とうとう捕まってしまった」という素振りを見せた。そして彼は、生気を取りもどしてバンドに復帰した。

 約1か月ぶりに姿を現したジョーは、当然、「どこで何をしていたのか?」と質問攻めに合った。ジョーによれば、彼とギャビー(・ソルター)は最初、何も考えずにパリに向かい、しばらく遊びまわったという。彼は、髭を伸ばしていたものの、誰にも気づかれず、「他人に無関心な土地柄なんじゃないかな」と、後に結論づけている。

 ジョーはまた、『NME』のチャールズ・シャー・マレイに明らかにしている。
「俺自身に対して証明したかったんだ。つまり、俺が生きているということを。俺は、グループの中に埋没し、ロボットのような気がしていた。他人に操られて、いつも協調し、必ず約束を果たし、エンターテイナーでありつづけるというように。決して羽目も外さずに。

 たとえ1か月でも、俺はああいう経験をしてよかったと思う。最初は、ほんの何日か、パリにいるつもりだったが、いればいるほど、戻りづらくなった。俺が引き起こしているバンドの中のいざこざに直面しなければならないだろうと思ったからだ」

 彼はまた、「俺はザ・クラッシュに気合いを入れ、ザ・クラッシュのファンに気合いを入れ、ザ・クラッシュのアンチに気合いを入れ、俺自身にも気合いを入れようとしたんだ」と、『サウンズ』に語っている。

 ジョーが不在の間、《ノウ・ユア・ライツ》が、シングルとしてリリースされた。B面には、《ファースト・ナイト・バック・イン・ロンドン》が収録される。だがセールスは、前作《ディス・イズ・レディオ・クラッシュ》と代わり映えがしないUKチャート43位に終わった。

『Joe Strummer and the legend of The Clash』
By Kris Needs
訳:中山啓子
[次回11/21(月)更新予定]