そういえば台所が薄暗くて狭かったな。風呂の脱衣場が仕切りの壁もなく台所の真横にあった。カーテン一枚で仕切るのみ。とにかく狭い。しかも風呂場には二槽式洗濯機が置いてあった。どこの家もそうなのかと思っていたらそんなことない。親戚や友達の家は、ちゃんと風呂場のみとして使っていた。我が家の風呂場の4分の1は洗濯機なのだ。狭い、狭すぎる。しかも風呂釜はレバーを回して「ガッチャンコ」と点火する古いタイプ。タイルもところどころ剥がれていたしな。

 居間が6畳。6人家族でメシを食ったらギュウギュウ。居間の壁が親父の吸うたばこのヤニで真っ茶色だった。廊下と居間の間のガラスの引き戸はガラガラとわずらわしい音を立てるし、冬は隙間風が入ってくるし、開き戸はバッターンッ!と自己主張が強すぎるわりに一度で閉まらない。

なんて素晴らしいのだろう

 なにしろ1997年の時点でトイレが汲み取り式だった。町内でもなかなかなかったんじゃないか? 子供の頃、月に何度かバキュームカーが狭い路地に入ってきて、清掃員のおじさんが吸い取っていくのをかたわらで鼻をつまんで凝視していたものだ。ただただ水洗トイレに憧れたっけ。

 1998年の正月。そんな実家に数カ月ぶりに帰ると、まぁ見違えるようになっていた。水洗トイレどころか、お尻洗い機能まで付いているじゃないか。「自分ちのウォシュレット」ってなんて素晴らしいのだろう。もう「し尿処理券」を近所のたばこ屋に買いに行かなくてよいのだ! 便意もないのに始終尻の穴に水を当てて喜んでいた大学1年の冬。バンザーイ、バンザーイ。

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