大人になり、紅茶専門店での修業を経て、鎌倉に自身の店を開くまでになったが、ネパールでの鮮烈なチャイ体験は記憶の奥に沈んでいた。
「鎌倉のお店が10年経った頃、私は何をやりたかったんだろうと悩むようになって。紅茶の世界に入るきっかけが、ネパールで飲んだチャイだったことを思い出したんです」
本能がパッとひらめいた瞬間だった。吉池さんは準備を整え、ネパールに旅立った。そして、チャイの屋台に何度も通い、自分が淹れたチャイを客に飲んでもらえないかと頼み込んだ。熱意が通じて交渉は成立。スパイスにフルーツやチョコレートを組み合わせるなど、豊かなアイデアあふれる吉池さんのチャイは、大勢の人を驚かせ、喜ばせた。それからの吉池さんは、チャイ用の小鍋や簡易コンロ、材料を抱え、チャイを飲む習慣がある国へ旅することが生きる喜びになった。今は、インド全域をめぐるのが目標だ。
「本場の国で私のチャイを飲んでもらうのは、本当にうれしくて楽しくて、素敵な時間です。チャイを教えてくれたネパールの人たちへの恩返しの気持ちで始めたので、費用はすべて自分持ち。お金をもらうのは何か違う気がして。チャイを振る舞う旅は、私の“ご褒美修業”なんです」
今、日本でもチャイは注目されている。吉池さんは、「チャイは難しくありません。自分らしい味が見つけられる自由な世界です。この本を通じて、旅とチャイの両方に心が躍る楽しさを感じてもらえたらうれしい」と微笑んだ。(ライター・角田奈穂子)
※AERA 2025年2月17日号
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