イラスト:サヲリブラウン
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 SNSのX(旧ツイッター)は、放っておくとおすすめ欄に強い言葉で彩られた投稿が並び、殺伐としてしまいます。ギスギスした並びにしておいたほうが、利用者の滞在時間が長くなるのでしょう。SNSを運営する各社は、利用者の時間を奪うのに必死だもの。

 芸能ネタから社会問題まで、眺めていると心が削られる投稿の拡散力は非常に大きい。私はアルゴリズムを利用して、できるだけそういったものが出てこないように工夫します。

 やり方は簡単。私は大の犬好きです。犬の写真や動画が流れてきたら積極的にいいねを押し、自分の投稿は、お知らせ以外はプロレスのことや、日常のどうでもいいことばかりにする。するとどうでしょう、おすすめ欄には動物とプロレスの投稿ばかりが並ぶようになります。やったね!

 先日、友人がインスタグラムの投稿URLを送ってきました。クリックしてみると、同世代の一般女性がセクシーな出で立ちで踊っていました。

 私と同じように、年相応の容姿。にもかかわらず、自分が性的に魅力があることを十分に理解している様子。私は圧倒されました。「年甲斐もない」とか「はしたない」という感想ではなく、その心意気に気圧された。いや、正直に言えば最初の10秒くらいはそう思ったけれど、あまりに堂々としているので、少しうらやましくなりました。そして、自分のなかに未だ「年齢を弁(わきま)えろ」の感覚が残っていることにうんざりもしました。自分はこんなに好き勝手生きているのに!

 フォロワーは数万人。容姿で承認欲求を満たす行為に年齢制限はないのかも? それ「だけ」だと、心が削られると思っていたのですが、これほど堂々としていて需要があるなら話は違うのかしら。

イラスト:サヲリブラウン

 呆気に取られていたのも束の間、今度はインスタのおすすめ欄に同様の女性がたくさん出てきました。アルゴリズム! 気づけば小一時間、私は同世代女性の自分アピール投稿を眺めていました。完全に時間を奪われた。

 この現象を自由な自己表現の象徴として好意的に捉えるか、自己の性的対象化で他者の興味を喚起するのは年齢を問わず精神衛生上よろしくないと捉えるか……。

 中年なのにみっともない、と思考停止していた時代は、ひとつひとつの事象を因数分解して考えずに済むから楽だったろうな。そっちに戻るつもりは絶対にないけれど。

AERA 2025年2月17日号

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