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――斉藤さんから「この曲はこんなアレンジで」とアイデアを出すことはありましたか?
それはありませんでした。武部さんをすごく信頼しているし、「私ごときが」というと語弊がありますけど、私が何か言うよりも武部さんが作ってくださるアレンジで歌うほうが思いがけないことが起こり得るだろうなと。自分でリクエストすると、どうしても自分好みになってしまう。そうではなくて「え、こんなアレンジで歌うなんて、私大丈夫かな?」ということに挑戦すべきだと思っていました。
――提示されたものに挑戦することで、想像を超えた表現が生まれると。
はい。歌に限らず、俳優としての仕事でもそういうところはあります。よっぽど「これは違うかな」と感じれば言うことはありますが、演技、バラエティ番組などでも最近は「わからないけど、とりあえずやってみよう」と思うことが増えてきました。同じところに留まり続けていると、温かいかもしれないけど、濁ってしまう感じもあって。それよりも多少の冒険だったり、「面白いんじゃない?」ということを大事にしている気がしますね。
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「一期一会の歌い方をしたい」
――『水響曲 第二楽章』に収録された「卒業」では、高校生の合唱隊とコラボレーション。記念すべきデビュー曲に新たな息吹が吹き込まれています。
「私の歌はなくてもいい」と思うくらい感動しました。高校生の年代だからこそ出せる声色があるし、「卒業」は人生のなかでそういうページにいる人たちが歌うべき曲だなと。
――「卒業」は最近のコンサートでも欠かせない楽曲ですが、40年経った今、どんなことを意識して歌っていますか?
いちばん数多く歌っているはずですし、骨身に叩き込まれている曲ではありますが、心のエネルギーをちゃんと使うと言いますか、心が正直に揺れるように注意を払っているところがあります。もちろん「こう歌えば、この曲の世界観に合うな」ということはわかるのですが、そうではなく、本当に自分の心が動くことに気をつけながら、一期一会の歌い方をしたいので。上手くできないこともありますけどね。そのときの状況や声のコンディションなどによって、既に持っている引き出しのなかで歌っているのが自分でわかることもあるので。そういうときは必死に自分の感情を追いかけて、葛藤しながら歌っています。
――その瞬間の感情、心の揺れを感じながら歌っている、と。