随所でキレのあるダンスも見せた松下洸平。6年ぶりのミュージカルとは思えないほどに躍動し、観客を魅了した
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 松下洸平が主演をつとめる舞台が開幕した。宿命のライバルを演じるのは実力派の松下優也。過去に歌い手のいない全く新しいミュージカルに「W松下」が臨む。 AERA2025年2月10日号より。

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「皆さんに楽しんでいただきたいという一心で、1カ月半、無我夢中で稽古してきました。歴史的な瞬間に立ち会っていただけたのではないかと思います」

 1月22日に東京・東急シアターオーブで開幕したミュージカル「ケイン&アベル」。世界初演となる初日のカーテンコールで、主演の松下洸平は充実感を漂わせながら客席に語りかけた。

 本作は英国の国民的作家、ジェフリー・アーチャーのベストセラー小説を原作として、世界で初めてミュージカル化した。

 舞台は20世紀初頭のアメリカだ。名家に生まれ、銀行家の父の後継ぎとして将来が約束されたウィリアム・ケイン(松下洸平)と、ポーランドの山奥で生まれ、貧困の中で孤児となり、戦争で故郷すら追われてアメリカに渡り、成り上がりの野心に燃えるアベル・ロスノフスキ(松下優也)。同じ日に生まれながら対照的な人生を歩む二人だが、やがて互いの運命が交錯し、世界恐慌を経て対立を深めていく。

「僕の愛する相棒」

 作品はケインとアベルそれぞれの人生を回想する形で物語が進む。人生だけではなく、ケインとアベルの歌声も対照的だ。

 冒頭、松下優也演じるアベルはアメリカに船で向かう道中、先に待つ自身の成功を信じ、目を輝かせて力強く情熱的に「アメリカン・ドリーム」を歌う。

 一方、松下洸平演じるケインは、華やかなパーティーの席で華麗なダンスを披露し、尊敬する銀行家の父への思い、そしてその道を進む決意を示すソロナンバー「父の名に恥じぬよう」を誠実に、のびやかに歌い上げる。

 松下洸平が本誌インタビュー(1月27日号)でも語ったように、「シンプルなメッセージを壮大に歌い上げる芸術性」や「会話の中で歌い出すことを“アリ”とする世界観」といったミュージカルの魅力は、冒頭の二人の歌唱だけで存分に伝わる。

 時代が進むにつれ、二人はともに経営者としての苦悩と向き合い、互いへの憎悪を膨らませていく。ケインは冷静で冷徹な銀行の経営者として鋭い視線を送るようになり、アベルはホテルのウェーターからホテル王へと駆け上がり、眉間に深いしわが刻まれていく。希望に満ちあふれていた若者だった面影はそこにはない。第1幕と第2幕では様変わりする二人の表情や振る舞いは、人は変わっていくという現実を突きつける。

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