「あのとき、2人が8割を出資し、野村が2割を出したが、その逆に東京に野村が8割、2人が2割を出してノムラ・ワッサースタイン・ペレラ、日本語で野村企業情報というM&Aの会社もつくった」
野村からの5人はM&Aを一から手がけた経験はなく、それぞれ指導役の米国人が付き、彼らのやり方をみながら仕事を覚えていく。驚いたのは、ブルースとジョーが集めた面々は、ものすごく働くことだ。ウォール街でのし上がるにはそれが当然、職場は「動物園」、彼らの貪欲さは「肉食獣」と言えた。職位が上がるほど交渉も巧緻になって、すごく勉強になる。
W&Pから野村企業情報へ移って35年、当時の同僚は証券会社や投資会社で頂点へ上り詰めた人がたくさんいる。いまも電話をかければ出てくれるし、電子メールを出せば必ず返事がくる。連夜、遅くまでいた「西52丁目31番地」のビルの前に立つと、「若いときにあんな経験ができたのは、本当に幸運だった」という言葉が、自然に出た。
著名な米国弁護士と投手と捕手の関係で大型買収を多数実現
この後、いま西49丁目にある米国野村で、ジョーやトビー・マイヤソン氏と落ち合った。トビーはウォール街で著名なM&Aの弁護士事務所の共同経営者だったが、ジョーが口説いてW&Pへ参加した。京都大学へ留学経験があり、日本語が話せるので野村企業情報に駐在したこともある。トビーが、山道さんとのコンビぶりを紹介した。
「W&Pは新しい会社だが、経営者のジョーとブルースはかなりの有名人で、野村はそういう経験のある人と組めばいいアドバイスを日本の企業へできる、という考えだったと思う。山道さんと記憶に残る仕事をたくさんやり、2人は投手と捕手のような関係で、球を投げ合って大きな会社の買収を続けました」
山道さんが頷いて、続ける。
「主にやったのは、日本企業の海外企業買収へのアドバイス。映画会社やIT系の企業買収など、日本企業はバブル経済下で海外事業の拡大に力を注いだ。やった仕事のなかで一番手応えがあったのは、最初に手がけた案件だ。名前を言ったら全員が分かる米企業と日本企業で、買収ではなく部分出資だった」
思い出話をしていたら、トビーが予想外のことを口にした。
「山道さんは全体を考え、温かさがある。金融の世界は男性社会なのに、男女を問わず熱心に耳を傾け、みんなを公平に扱った。ひじょうに印象的でした」
ちょっと照れくさい。でも、男女均等は、意識していた。