英語をもっと話せたら。そう感じたことがある人は多いだろう。
英会話スクールに通ってみたりやめたりを思い出したように繰り返してきたが、日常的に日本語しか使わない環境では思うように壁を破れない。海外留学でもすれば、という思いと強い憧れはあるものの、会社勤めの身ではまとまった休みを取ることが難しい。さらに昨今の欧米のインフレと円安により、英語圏への留学は高嶺の花だ。そんななかで注目したのが、短期集中で英会話を身につけられプログラム「国内留学」。その効果はいかほどか。「日本語禁止」のルールを徹底している東京都と静岡県の2校のうち、今回は静岡の施設の門を叩いた。AERA 2025年2月3日号より。
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「Hi! Welcome to Language Village!」
玄関の自動ドアが開いた瞬間、英語で迎えられて面食らう。“国内留学”を目的に訪れた「日本語禁止」ルールは把握していたが、到着した瞬間に始まるとは思っていなかった。事前に詳細な日本語資料は送付されているものの、施設の案内からタイムスケジュールといった一切が、外国人講師の口から英語で説明されていく。眼前に広がる美しい富士山の眺めをよそに、瞬く間に異国に飛び込んだような気持ちになる。
静岡県富士市のLanguage Village(以下LV)は、施設に泊まり込みで2~7泊の合宿制。1コマ60分の授業が、午前に3コマ、午後に3コマの計6時間行われるが、とにかく発話の機会が多い。普段、海外旅行で困ることはないものの表層的なやりとりを超えた主張や意見となると、英語がスムーズに出てくるようになるまでには3日ほどかかるのだが、ここでは初日を終えるころには、自分の脳内がすっかり英語に切り替わっていたことに、まず驚かされた。
LVの最大の特徴は、朝昼晩の食事タイムにある。それぞれ30分程度だが、必ず講師と一緒にテーブルを囲み、会話をかわしながら食事を取る。例えば朝は、トーストにする? ごはん?から始まって、好きな食事、映画の話、出身地についてなど、話題は多岐にわたる。もちろん、英語表現や学習に関する質問にも即座に答えてくれる。
このプログラムのベースとなっているのが、代表の秋山昌広氏のボストン留学中の体験だ。留学生の多くがシェアアパートメントやドミトリーで暮らすなか、ホームステイを選択した秋山氏。毎晩、各国からの留学生たちと共に食事を取りながら、その日の出来事を英語で報告するようホストマザーに求められていた。一人あたりの話す時間は5分にも満たなかったが、半年後に気づけば、周囲の日本人留学生と比べて、飛躍的に英会話力が伸びていたのだという。
「勉強だけしていても話せるようにはならない。英語を使う環境を提供することが最も重要だと感じたんです」