結婚3年目の実憂さん(34)。自然体でよくしゃべる明るい女性だが、話の途中で複雑な表情を浮かべた。
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「順当」にマイホームに暮らしているが
「順当だねえ」と言うと、実憂さんは、あいまいな表情を浮かべた。
何か思うことがあるのだろうか。
「人によってはそう思われるかもしれないけど、別にたいしてお金ももらえていないし。やっぱり、ただの事務なので。資格は持っているけれど、社会保険労務士として仕事をしているわけではないんですよ。私は『六法』を丸暗記しただけなので、実務では頼りないところがあるから、社会保険労務士としての転職はあんまり考えていないんです」
そう言うと、「ふう」と謎のため息をついた。
とはいえ、既に埼玉県でマイホームも購入している。ライフプランも完璧だ。
「一軒家ですね。マンションのほうが駅近になるから高いんです。まあ、いずれ猫とかも飼いたいし。財布も夫婦で完全に一つにして、私が管理しています。夫の給料日に、全額を下ろして、私の口座にまとめる。そこからすべての支払いをして、お互いお小遣い制です」
やはり、ルールを作って事務的に動くことが好きなようだ。
いいよいいよ、辞めていいよ
「夫は、ずっと介護施設で働いていたんですけど、やっぱり過酷なんですよ。夜寝ないおじいちゃんに『寝ましょう』って言うと殴られるみたいな話を聞いて、『いいよいいよ、辞めていいよ』って。今は、知り合いがやっているラーメン屋さんで働いています。拘束時間は長いけど、人間関係のストレスはなさそうだから良いですね」
話を聞きながら、私はこれまでインタビューしてきた女性たちのことを思い出していた。
40代、50代の就職氷河期世代は、体を壊すまで仕事にしがみつく傾向が強く、過労やストレスで病気になり、休職を余儀なくされる人も珍しくない。
かたや、30代の実憂さんは、ワークライフバランスを何よりも大切にしているように見える。上の世代を反面教師に、「仕事に人生を奪われない」「自分の体を大事にする」という考え方にシフトしているのかもしれない。
「私が人生でやりたいことは、映画を観たり、美味しいものを食べたり、本を読んだり、友だちと話したり、ライブに行ったりすることだから。仕事は、生活と余暇のために、仕方なくしていますね」
キッパリと言う。