世界の変動と共に生きる
ドイツを代表するオーケストラの「顔」として考えなければならないのは音楽のことだけではない。昨年はベルリン市が文化予算の削減に舵(かじ)を切った。影響はオーケストラやオペラ、演劇や映画、美術館、ジャズクラブなど市内すべての文化活動に及ぶ。
「ベルリン・フィルの財政自体は健全ですが、僕たちも文化予算削減はダメだと発言していますし、街ではデモなども盛んに行われています。美しい街並みで知られる都市の多いドイツだけれど、ベルリンは空襲で破壊され、景観にそれほどの魅力はありません。でも、ベルリン・フィルをはじめ文化があるからこそ世界から人が集まり、ホテルに泊まって経済を活性化してくれる。そこを見ないでどうするのかと思います」
ベルリン・フィルは大きな影響力を持つ団体であり、団員のルーツもさまざま。世界の変動と無関係ではいられない立場にある。
「ロシアによるウクライナ侵攻が起きた時には、すぐに被害者のためのチャリティーコンサートを行いました。ドイツはウクライナと近く、避難民もたくさん住んでいるので無関心ではいられません。また、一時期ヨーロッパで起きたロシア音楽排除の動きには、断固として反対しました」
今年6月には、若い頃から共演を重ねてきたイタリア出身ピアニストのアレッシオ・バックスとのデュオ・リサイタルのため、再び帰国予定だ。(ライター・千葉望)
※AERA 2025年1月27日号