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 90歳を迎えた今も現役医師として働く折茂肇医師は、判断力、総合力などの「結晶性能力」は老年期において衰えることはなく、むしろ人によっては年齢を重ねてから、より高まる場合があるのだと語る。

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 折茂医師は、東京大学医学部老年病学教室の元教授で、日本老年医学会理事長を務めていた老年医学の第一人者。自立した高齢者として日々を生き生きと過ごすための一助になればと、自身の経験を交えながら快く老いる方法を紹介した著書『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)を発刊した。同書から一部抜粋してお届けする(第16回)。

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ミネルバのフクロウは日暮れに飛び立つ(哲学者ヘーゲルの言葉より)

 フクロウは、ギリシャ神話に出てくる女神アテネ(ミネルバ)の象徴であり、知恵や技芸、学問などをつかさどるといわれていた。「ミネルバのフクロウは日暮れに飛び立つ」というのは、ドイツの有名な哲学者、ヘーゲルの言葉だ。私はこれを聞いたとき、なんと素晴らしい響きを持った言葉だと、大変な感銘を受けた。たそがれにこそ「知恵が飛び立つ」というのだから。

 この言葉は、超高齢社会を迎えた我が国において、すでに高齢者として生きる我々にとって希望を与えてくれる言葉であり、これから高齢期を迎える人々にとっては、その進むべき道を示す言葉となろう。

 たそがれにこそ知恵が飛び立つ、という言葉が示す通り、人間の知性というものは年をとったからといって決して衰えるものではない。全く不思議なことだが、すべての臓器が衰え、体の機能が衰弱する老年期において、むしろ知性は年をとるほどに磨きがかかるのだ。それはなぜなのか。

折茂肇(おりも・はじめ)医師/東京大学医学部老年病学教室・元教授、公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長(撮影/写真映像部・松永卓也)

 人の能力というものは、大きく考えると「流動性能力」と「結晶性能力」に分けられる。前者には記憶力、計算力などがあり、後者には判断力、総合力などがある。そして結晶性能力はとくに、積み重ねてきた知識や経験により磨きがかかるものと考えられている。

 個人差はあるが、流動性能力は一般的に、20 代をピークとして、その後は低下していく。一方、結晶性能力は加齢による変化はほとんどみられず、むしろ人によっては年齢を重ねてから、より高まる場合があるのだ。しかし、そのことを知らない人も世の中には多い。

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老人であることを理由に差別する「エージズム」