豊崎由美(とよざき・ゆみ)/1961年、愛知県生まれ。東洋大学文学部印度哲学科卒。多くの雑誌、WEB、新聞で書評の連載を持つ。著書に『ニッポンの書評』(光文社新書)、共著に『カッコよくなきゃ、ポエムじゃない! 萌える現代詩入門』(思潮社)など(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】人気書評家の「どうかしていた」抱腹絶倒エッセイ

 人気書評家・豊崎由美さんの初のエッセイ集。多動でケガが絶えなかった子ども時代。サブカルと競馬にのめり込んだ青春時代。還暦を迎えたいまも風呂嫌いで、かかとの皮をむいて溜め込んでいる──「いつかどこかで死んでいたのかも」というほどに「どうかしていた」人生を、本の紹介とともに振り返る抱腹絶倒の一冊『どうかしてました』。豊崎さんに同書にかける思いを聞いた。

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 ここまでタイトルに深々とうなずける本もめずらしい。『文学賞メッタ斬り!』で知られる書評家・豊崎由美さん(63)の『どうかしてました』は、本の紹介に若き日の自身の体験を絡めた初エッセイ集だ。スパイに憧れて知らないおじさんを尾行したり、スッポンの水槽に手を突っ込んで惨事を巻き起こしたりした幼少期。階段で水泳大会のリレーのスタート練習をし、本当に頭から飛び込んで失神した学生時代……その失敗、もとい失態(失礼!)の数々は爆笑を通り越して悶絶ものだ。

「飲みの席やトークイベントで昔のことを話すと『面白い』『なぜそれを書かないの』と言われ続けてきたんです。でも私は雑誌ライター育ちで自分の我を消して文章を書いてきた。だから自分のことを書くのが苦手で、エッセイは無理だと思ってきたのですが」

 出版業界紙「新文化」に依頼され「一般の人の目にはつかなさそうだし、いっか」と連載をスタート。それらを中心にまとめたのが本著だ。

「話芸と同じだと思うけれど、人を笑わせるには構成がものすごく大事。何から始めてどこで落としてくのか。限られた文字数で人を笑わせる文章の構造を学んだ気がします」

『どうかしてました』(1870円〈税込み〉/ホーム社)人気書評家の初のエッセイ集。多動でケガが絶えなかった子ども時代。サブカルと競馬にのめり込んだ青春時代。還暦を迎えたいまも風呂嫌いで、かかとの皮をむいて溜め込んでいる──「いつかどこかで死んでいたのかも」というほどに「どうかしていた」人生を、本の紹介とともに振り返る抱腹絶倒の一冊

 社会人になってからも「どうかしていた」人生は続く。競馬にあけくれて借金を重ね丸井の店員の目の前でカードにハサミを入れさせられたり、駆け出しライターとして雑誌にウソっぱちのセックス体験記を書きまくったり。「本を読んでいなかったら本当にどうなっていたかわからない」というほどその人生は波瀾万丈だ。過去を振り返るうち書評家の原点にも思い当たった。

「私はマンモス団地に住んでいて毎朝通学団を率いて学校まで歩いていたんです。その道中で昨日観たドラマ『傷だらけの天使』や『前略おふくろ様』のあらすじをモノマネも入れながらみんなに話していた。しかも学校についたところできっちり終わらせる。あらすじをまとめる技はあれで身についたのかもしれない」

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