AERA 2025年1月20日号より

「スズメの涙程度」

 大和総研の是枝俊悟氏の試算では、年収300万円で年5千円、年収500万円や600万円で年1万円、年収800万円や1千万円で年2万円が減税となり、手取りが増えるという。

「スズメの涙程度」

「ガソリン代にもならんわ」

 SNSには、123万円では不十分とする声が溢れた。

 これに対し、みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・チーフ日本経済エコノミストは、「123万円は妥当な額」と語る。

 国民民主が主張した178万円は、最低賃金を基に算出していた。所得税の課税最低限の103万円は1995年から変わっていないが、これまでの約30年で最低賃金は1.73倍になった。そこで、控除合計額も「103万円×1.73=178万円」にするべきだと国民民主は訴えた。

「一方、インフレに対応して課税最低限を調整する観点からは、最低賃金ではなく物価上昇率に合わせて調整するのが合理的です。1995年と2024年で比較すると食料や家賃など身近な必需品の物価上昇率は1.24倍でした。つまり『103万円×1.24=128万円』となり、123万円は概ね妥当な額です」(酒井氏)

 1月に『まさかの税金』を出した、税法学者で青山学院大学名誉教授でもある三木義一氏は103万円の壁の見直しについて、基礎控除を引き上げる動きは「税制のあり方としては正しい」と話す。

「日本の所得税法は、基礎控除によって憲法25条が保障する『健康で文化的な最低限度の生活』に必要なお金には課税できないことになっています。しかし、その基礎控除の金額が年48万円です。年48万円で人間として健康で文化的な生活ができるでしょうか」

 日本は1995年から約30年、基礎控除額を全く引き上げてこなかったが、それは「致命的問題だった」と三木氏は指摘する。

「この間、与党一強体制のもとで議論されないまま放置されてきました。それが、少数与党になったおかげで野党の意見についても議論しなければいけなくなってきた。そういう意味でいい傾向だと思います」

(編集部・野村昌二)

AERA 2025年1月20日号より抜粋

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