全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年1月20日号には岸産業 木工課係長 若林宏治さんが登場した。
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食品の安全を管理する冷蔵・冷凍倉庫や危険物を保管する化学薬品工場。こうした施設は、内部の温度や環境を一定に保つ必要がある。扉の開閉で冷気が外に漏れたり、暖かい空気が入ってきたりするのを防ぐため、出入り口には断熱性や気密性を高めた防熱扉が使われている。
外見ではわからないが、防熱扉の枠組みには木材が使われることが多い。木枠を作る木工課のリーダーとして、製作はもちろん、後進の育成にも力を入れる。
まずは設計図を見ながら扉の大きさに対する枠の寸法を計算し、なるべく端材が出ないよう最適な木材を選ぶ。
湿度や温度の影響で反りが生じている木もあるため、かんなをかけてまっすぐにした上で必要なサイズにカットする。注文によってサイズは異なり、最長で5メートルほどの木材を扱うこともある。
仕上がりの誤差はマイナス1ミリまでという厳しい基準を自ら設定。注文のサイズに合うように加工し、組み立てていく。
木を枠に使うのは、木の内部にある空気の層が断熱効果を生み出してくれるからだ。加工がしやすく、丈夫なのも木が選ばれる理由だという。
完成した木枠に板金の担当者たちがステンレスを貼り付け、内部に断熱材を注入。最後に仕上げ担当のスタッフたちが取っ手などの部品を取り付けて完成する。
1年間に作る防熱扉は千台ほど。サイズや形、用途は発注元によって異なり、同じものは一つもない。複雑な仕様のものだと完成までに150時間ほどを要することもあるという。
完成には全部署のチームワークが欠かせないが、木枠は構造の基礎となるため、失敗は大きな損害につながる。「枠作りは他の部署に最初に仕事を引き継ぐ大切な役割を担っています。後の作業に迷惑がかからないようスピードも求められます」
ただ、工程通りに進めても最後の仕上げ部門にはどうしても仕事がたまりがちになる。作業がもっとスムーズに流れるように何をすべきか、いつも自問自答している。
「他の工程を考慮して行動すると製作がスムーズに進むことを実感しています。さらに全体を見てみんなのモチベーションと生産性を上げられるリーダーになるのが目標です」
(ライター・浴野朝香)
※AERA 2025年1月20日号