最近よく聞く「リスキリング」。ビジネスパーソンがキャリアアップなどを目的に新たな知識やスキルを取得することを指すが、シンガー・ソングライター・柴田淳さんが選んだ学びは、なんと救命救急。専門学校にも通って国家資格取得を目指したというが……第一線を走るアーティストがなぜ?! 小説家・榎本憲男さんが、柴田さんご本人へのインタビューをもとにコラムをまとめた。
【写真】「ずっと歌う」と宣言しながら救命救急士の資格を取得 柴田淳の不思議なリスキリング
* * *
最近、リスキリングという言葉をよく耳にする。やさしい言葉に直すと「学び直し」だろうか。人生が一区切りついた段階で新しいことを学んでキャリアアップを図るという意味が多分に含まれた言葉である。このような語が流行る背景には、長寿化に加えてコロナ禍があるのはまちがいない。この感染症の流行によって、多くの企業がリモートワークやオンラインサービスを急ピッチで導入しはじめた。従業員側からみると、AIや自動化技術が進展したことで、従来のスキルが役に立たなくなり、新しい技能の取得に迫られることになった。とくに求められるようになったのはデジタルスキルで、中高年はこの分野のアップデートを迫られている。例えば、病院で勤務していた看護師が、バイオインフォマティクスやヘルスケアITシステムの管理に関する専門資格を取得し、電子カルテシステムの導入や運用をサポートする仕事に従事するようになる、などというイメージだ。
救命救急士に憧れながらも音楽の道へ
けれど、上記のような動機とはまったく無縁に不思議なリスキリングを行ったアーティストがいる。歌手の柴田淳だ。20代でデビューし、20年たった今も第一線で歌い続けているシンガー・ソングライターである。彼女が身につけたのは、“救急救命”という技術である。
彼女はもともと若い頃から、救急救命士に対して歌手とおなじくらいの憧れを抱いていたようだ。しかし、2つの道を目の前にして結局彼女は歌の道に足を踏み出し、大学卒業後、プロとしてデビューする。それ以降は、もちろんさまざまな紆余(うよ)曲折はあっただろうが、自ら作詞作曲し14枚のオリジナルアルバムを世に送り出した(最新アルバムに他人の作詞によるものが1曲だけある)。