「同じ給食」に子どもたちは喜んでいた
その日のメニューは鶏肉の代わりにちくわを使用した親子丼。ほか、イカの天ぷら、みそ汁、リンゴジュース。調味料には豚肉エキスを使用せず、昆布や野菜からだしをとった。しょうゆはハラル対応の製品を使用した。
「ムスリムの子たちは『みんなと同じ給食が食べられた』と言って、とても喜んでいました。私たちはそれを見て、とても感動しました」(前出の担当者)
だが、ハラル食が提供されたことが報道されると、SNSを中心に「大炎上した」(同)。
苦情の電話がかかってきたり、自治体のホームページに批判が書き込まれたり、そんな状態が3カ月も続いたという。
「子どもたちのためにと思ってしたことが、これほど批判されるとは……」
給食センターの担当者は複雑な表情を浮かべた。
バッシングのウラに潜む誤解
こうしたバッシングについて、「日本ハラール協会」のレモン史視(ひとみ)理事長は、「ハラル対応を求めているのは本人の宗教に基づくことですが、そのことが、日本人の子どもが宗教を強制されたり、日本の文化が脅かされたりする、などと誤解されがち」だと言う。
なかには逆に「戒律に厳格に則ったハラル食を提供できているのか」という批判もあった。学校給食センターでは、食材や調理法について、事前にムスリムの保護者に確認してもらったという。
「給食を作る側が『こんな食材と調理法で食事を出しますが、食べられますか?』と、ムスリムの家庭に問いかけて、保護者が『うちでも同様にしているので大丈夫です』というのであれば、問題ないでしょう」(レモン理事長)
ハラル食品を輸出する場合は、たとえば、それに含まれている塩や砂糖を精製する際も動物の骨由来の活性炭フィルターを使用していないなど、受け入れ国が定める厳格な基準をクリアしなければならない。だが、保育園や学校では、ハラルの基本的な食材と調理法が守られていればOKという。
ハラル食は、野菜と魚介類を中心とした食事であることも多く、内容的には伝統的な和食とも重なるのだが、そうした実態はほとんど知られていない。
異文化を知る「食育」として、ハラル食をはじめさまざまな文化圏の料理を食べる機会が増えれば、子どもたちの食と文化に対する理解は深まっていくに違いない。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)