さて、このザイム真理教の教理の中でもっとも重要な教義は、財政赤字の解消(財政の健全化)、プライマリーバランスの黒字化である。なぜ、赤字のままではいけないのか、なぜ赤字だと不健全なのか。そこに合理的な理由はない。借金はないに越したことはない、赤字よりも黒字がいいに決まっているという先入観を利用し、まったく合理性のない教義を説いて普及し、自分たちの権力(省益)を確保しようとしている。――このような理解がじわじわと世間に広まりつつある。

安倍元首相も財務省には手を焼いていた?!

 しかし、本当に財政赤字は解消しなくていいのか、プライマリーバランスは黒字化しなくてもいいのか? という疑問はとうぜん起きる。だいたい、ニュース番組のキャスターは「解消するべきだ」「黒字化するべきだ」という前提で話している。「増え続ける国の借金についても私たちは考えないわけにはいきません」とか「では、財源はどうするのか。課題は山積みです」などというコメントは、政府支出の削減や増税といった緊縮財政政策を優先すべき考え方を支持していると見ることができる。

 まず、「国の借金」という言い方が詐欺に等しい。正確には「政府の借金」と言うべきで、では政府は誰に借金しているのか? つまり、国債を買っているのは誰か? 日本の国債の購入者はほぼすべて日本人と日本企業である。そして、日本人や日本企業にとって購入した国債は資産である。

 際限なく国債を発行して、債務不履行になったらどうするんだという意見もある。しかし、財務省みずからがそんなことはありえないと声明を出している。2002年、日本国債の格付けが外国格付け会社によって引き下げられたことを受けて、財務省はこれに対して反論する公開質問状を発した。そこには「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」とはっきり書いてある。このことを大手メディアは報じない。

 さて、経済学者や評論家でなく、政治家から「ザイム真理教はある」説を裏付ける書物がある。それが『安倍晋三回顧録』だ。いかに、安倍元首相が財務省に手を焼いたのかが語られている。「(財務省は)国が滅びても、財政規律が保たれてさえいれば、満足なんです」とか、「彼らは省益のためなら政権を倒すことも辞さない」などとある。まるで財務省が敵であるかのような筆致だ。

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元大蔵事務次官からの反論も?