問題は大きく二つある。

 一つ目は、動線計画の致命的なまずさだ。商品が市場の「血液」だとすれば、その滞留は、市場の「死」を意味し、到底許されるわけがないのだが、リスクは挙げると切りがない。

 例えば、豊洲の建物の外周に設置された「バース」と呼ばれる荷物の積み降ろし場所。冒頭にあるように、トラックの長方形の荷台から荷物を降ろすには、側面からの方が効率ははるかに良い。ところが豊洲は、トラック後部にある小さな扉からの荷降ろしを想定した造りになっている(写真(2))。

 現在の築地でも「毎営業日、戦争のような忙しさで魚介類を運び出し、何とか競りの時間に間に合わせている」(市場関係者)のが実情だ。ここで荷降ろしの手段を制限すれば、まず市場の入り口で商品が詰まってしまう。競りの時間の遅れは、生鮮食品にとってはまさに、命取りとなる。

 他にも、各地から商品を仕入れて市場に運ぶ卸売業者と、これらを仕入れる仲卸業者の売り場スペースが、豊洲では別々の棟に分断される。両者をつなぐのは、「アンダーパス」と呼ばれる地下の細い通路しかない。

 現在築地では、両者の距離は近くて地続きだ。そのため、フォークリフトや「ターレ」と呼ばれる電動車両で「互いにあうんの呼吸で荷物を配送し合う」(別の市場関係者)ことが可能だ。だが、豊洲では動線が物理的に大きく制約される上、「互いが運搬をどのように担うのか、現時点で何も決まっていない」(同関係者)。

 さらに豊洲には3~6階建ての建物が並ぶため、築地にはなかった建物内での上下の移動が生じるが、エレベーターは少なく、スロープには傾斜がある上、急カーブで危険だ。現在築地では、魚介類を詰めた発泡スチロールの箱が縦横に積まれた隙間を縫って、おびただしい数のフォークリフトやターレが所狭しと行き交う。豊洲の構造は、こうした実情をまったく踏まえていないのである。

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