かつての日本では、自民党が長らく政権を握る「政界」と、経団連や経済同友会所属の大企業が大きな発言力を持つ「財界」、霞が関の各省庁で要職を占めるエリート官僚が影響力を行使する「官界」の三つが、互いに牽制し合って国の中枢を牛耳る「政財官トライアングル」を形成していました。しかし、第二次安倍政権が発足した二〇一二年あたりから、この三つの「界」が融合して「支配層」を形成し、そこに大手メディアや大手広告代理店なども取り込まれて自浄能力を失う状況になってきました。

 報道の自由がなくなれば、当然ながら、政府の権力行使も不正と腐敗に向かうようになり、公金を悪用した裏金作りや特定宗教団体との水面下での癒着など、三流腐敗国でよく見られる光景が、いつしか当たり前となりました。権力を監視して不正を暴く役割を担う検察とジャーナリズムが、この一二年で異様なほど弱腰となり、昔なら起訴された事案が不起訴になったり、国会議員や都道府県知事の不正疑惑をメディアが報じず黙認したりする事例も増えました。

 こんな現状を、五〇年後の日本人に見られて平気でいられますか? 私はそんな問題意識から、この本を執筆しました。戦後の日本社会で辛うじて共有されてきた、常識や良識の底が抜け、近代国家より前の野蛮な「力の支配」があらゆる領域で跳梁跋扈している。今を生きる一人の日本人として、後の世代の日本人に対して恥ずかしい、あるいは申し訳ない。そんな気分に襲われます。

 このままでいいわけがありません。何とかしないといけない。では、何から手をつけたらいいのか。それを考えるための材料を、本書は豊富に提供しています。すぐに問題全てを解決するのは無理でも、せめて腐敗と堕落の流れに抗う努力をするのが、我々の責務ではないでしょうか。

一冊の本 1月号
『底が抜けた国 自浄能力を失った日本は再生できるのか?』 山崎雅弘 著
朝日文庫より発売中

[AERA最新号はこちら]