「静かな退職」が広がる背景にある「少子化」と「人手不足」。貴重な人材にやめられては困る職場では、働く意欲がなかったとしても対応が甘くなりがちだ(写真:写真映像部)
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 昔から働かない人はどの職場にもいた。それは大抵、ある年齢で役職からはずれて仕事に熱中する理由を見いだせなくなった中高年層だった。だが今、そんな働き方を主体的に選ぶ人が、特に若い世代で増えている。AERA 2024年12月16日号より。

【図表を見る】34歳以下の若手で「静かなる退職」を選択している割合は?

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「まさにいまの私、『静かな退職』です」

 こう話すのは、兵庫県の会社員の女性(53)。事務職として30年働いてきた。社会に出た頃は「仕事って楽しい」という思いもあった。しかし5年前に会社が大企業に吸収合併された頃から会社の姿勢に疑問を感じ、目の前の仕事を淡々とこなす日々だ。

「上司に怒られても痛くも痒くもない。正社員でいられたらそれでいい。同世代の正社員女子ともよく話します。『さて、厚生年金のために働きますか』と」

 最低限の仕事はするが、全力で取り組むことはしない。退職や転職をするつもりもないが、仕事に積極的な意義を見いださない。そんな「静かな退職」という働き方を選ぶ人が増えている。

「給料をもらうために決められたことはやる。仕事に創意工夫を取り入れることもなく、新しいチャレンジもしない。自分の職域を広げるような行動をとらないことも特徴です」

 こう話すのは、働きがいのある会社研究所(「Great Place To Work Institute Japan」)代表の荒川陽子さん(44)。「働かない人なら昔からどの職場にもいるのでは」と思いがちだが、旧来のそういう人と「静かな退職」には大きな違いがあるという。

「ある年齢で役職から外れて仕事に熱中する理由を見いだせなくなるといった『ぶら下がり社員』は昔からいます。日本型の雇用システムが『生み出した』存在ですが、『静かな退職』がそれと大きく違うのは、自分から主体的にその働き方を選んでいる点です」

「プライベートを充実させたいので極力仕事はしない」という理由や、「自分の仕事は報われない」という思いから「一生懸命仕事をするのをやめる」ケースが多いのだという。

 同社が今年1月に行った調査でも、「静かな退職」のメリットとして「プライベートの時間が確保できる」を選んだ人が半数近く。また年齢別にみると、中高年以外に若手(34歳以下)が約3割を占めているのも目を引く。

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若者の存在はダイヤモンド、人材難でやめられたら困る