シニア生活文化研究所の小谷みどりさん(撮影/大崎百紀)

単身高齢者を支援するには

 その翌年、先立った配偶者の分も2倍人生を楽しむことを目的に「没イチ会」を立ち上げた。50歳の誕生日を迎える1週間前に25年以上勤めた会社を辞めた。現在は死生学に関する講演会を全国各地で行い、武蔵野大学と身延山大学の客員教授も務める。地元では消防団の活動をしたり、小学校で児童の支援員をしたりもする。

 地域でゴミ拾いのボランティアをしていた時に、「裕福とは言い難い単身高齢者を多く目の当たりにし、どうやったら彼らを支援できるのだろうと考えるようになった」ことが、シニア食堂を始めるきっかけだという。

 1日15人限定で、ランチの代金は1人300円。食材の用意も調理も小谷さんが中心になり、ボランティアスタッフとともに行う。野菜は無農薬野菜ファームをするバツイチシニアや、家庭菜園をする「ご近所さん」から購入したりするという。費用は小谷さんが負担し、補助金の申請はしていない。本格オープンは来年の1月で、月2回程度の開催を予定しているという。

気負わず話せる環境に

 ここ数年、全国各地で「シニア食堂」が注目されるようになった。

 たとえば、東京都は2023年度から新規事業として「TOKYO長寿ふれあい食堂推進事業」を進めている。地域住民らが主体となって実施する会食活動を育成・支援する区市町村に補助をしていて、それにより地域交流の場としての「シニアふれあい食堂」が目立つようになった。しかしながら「なかなか行きづらい」「存在自体を知らない」「タイミングが合わない」という声もある。

「(行政やNPOが主導するシニア食堂が)増えているのはたまたまかな。『没イチ会』に入りたいという声を聞いたことも理由だし、全国で講演をするたび、自分のお墓の悩みとか、切々と質問をする方も多くて、『こういう(終活の)悩みって、相談する場所もないんだなって』って思ったのも大きいです。ここに来てくれたら、私が聞きますよ」(小谷さん)

 独り身だからこそ、同じ境遇の人にこぼせる悩みもある。気負わず話せる環境があるということは、孤立した人にとって大きいのだろう。

「たとえ没イチじゃなくても、どんな人でも来てほしいと思っています」(小谷さん)  

 小谷さんに誘われて、シニア食堂にやってきた75歳の独身男性は話す。

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老後の不安なくなるはず