(撮影/大崎百紀)
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 小さな「シニア食堂」が11月28日、都内にプレオープンした。ふだんは「バー」という店内で、ビュッフェスタイルの昼食をとり、会話を楽しんでいるのは60~70代のシニアたちだ。

【写真】これで300円! 大充実の食堂ランチ

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坊主バーがシニア食堂に

 本日のメニューは、山形の玉こんにゃくの炒り煮、里芋・セレベスとネギの煮物、パパイアと根菜、さつま揚げの煮物、鯖の南蛮漬け、無農薬冬野菜のサラダ、杏仁豆腐、バウムクーヘン。

「この煮物に入っているのは、パパイアだって」

「鯖は豊洲市場で今朝買ってきて作ったんだって」

 東京・四谷三丁目エリア。僧侶が運営するバーとして話題の「坊主バー」が、この日は食堂に早変わりした。

 シニアが集い、会話と食を楽しんでいる。半数以上が没イチ(配偶者に先立たれた人のこと)・バツイチ・独身者のいずれかだ。 

 伴侶を亡くしてまだ数年の人もいれば、10年以上経つ人もいる。

ずらりならんだ食堂のメニュー(撮影/大崎百紀)

交流の場になることを目指して

 食後、49歳の時に妻を亡くした中川興和さんがギター演奏を始めると、店内に残っていた10人ほどの客たちが口ずさみ、小さな演奏会が始まった。照明が落とされ、まったりとした雰囲気になった。

「僕の演奏で誰かが喜んでくれるなら」

 中川さんは没イチになってからベースギターを始めたという。

 この「シニア食堂」は、いわゆる「定食屋」ではない。シニアによるシニアのための食堂だ。食事をしながら、不安や悩みを吐露したり、共有したりすることで、生きる力を与え合い、「新たな一歩」を踏み出していく――。そんな交流の場になることを目指して、シニア生活文化研究所の小谷みどりさん(55)が立ち上げた。

「誰かと話したい人が気軽に来られるような場にしたいんです。単身高齢者が増えていけば、社会的孤立者は増加します。廉価で共食の場をつくることで、一人暮らしの高齢者が集い、人とつながって笑顔になり、生きる力にもつなげることができたら、それが一番うれしい。スタッフの多くが離別や死別、子どもが引きこもりなどの、不安や悩みを抱える経験や、つらい体験をしてきているだけでなく、専門職の経歴を持つ人も少なくないんです」

 小谷さん自身も没イチだ。42歳の時に突然死で夫を失った。

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店内で会話が弾む