若いころの私は、高齢の患者さんの病気や身体的な面にばかり目を向けていた。しかし、好きなことや生きがいがあれば、元気になることがある。だから、本来なら患者さんが何に気を悩ませているのか、どういうことを実現したがっているのかといった精神的な面にまで意識を向けるべきだったのだろう。

 もう時効ではあろうが、若さゆえに高齢者をイラつかせるような言動を繰り返していたかもしれないと思うと、恥ずかしさと申し訳なさが入り混じった気持ちになる。

折茂肇(おりも・はじめ)医師/東京大学医学部老年病学教室・元教授、公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長(撮影/写真映像部・松永卓也)

老いの心境がわかるようになったのは還暦を過ぎてから

 目の前の研究や患者さんへの対応に忙しく、我が身の行く先を想像したりする余裕がなかったともいえるが、あまり先々のことを考えずに生きてきたことがかえってよかったのでは、とも思う。

 そんな私が、少しずつ老いの気持ちを理解し、高齢者のことがわかり始めたのは、還暦を過ぎたころからだったように思う。そこからまた、さらに30年弱の時を経て今の自分がいるのだが、たどり着いた答えとして大きく3つがある。健やかに老いていくためには「病気と仲良くすること」、「食べること(体の維持)」、「役に立つ意識(生きがい)」が大切ということだ。

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