市川染五郎さん(撮影:写真映像部・上田泰世)
この記事の写真をすべて見る

「義経千本桜」に「源氏物語」、そして劇団☆新感線との「朧の森に棲む鬼」まで、今年もほぼ毎月、幅広く歌舞伎の舞台に立ち続けている。19歳の眼差しの行方は。AERA2024年12月2日号より。

【写真】「19歳でこの色気『市川染五郎さん』」はこちら

*  *  *

「いつまでもずっと見ていたい美しさ」「息をするのを忘れてしまうほど」「奇跡の美少年」──。その美男子ぶりを伝えようと大人たちが絞り出してきた言葉は、今もすべてが当てはまる。

 市川染五郎さん、19歳。松本白鸚さんを祖父に、松本幸四郎さんを父に持つサラブレッド、小学生の頃から歌舞伎界トップクラスの美貌も話題だった。そんな彼が父の名跡を襲名したのは6年前のことだ。

「歌舞伎では10代後半には役がつきにくいと言われています。子どもの役もできなくなり、かといって大人の役もできない。普通は舞台に立つ頻度が減る時期なんです。ところが僕の場合はありがたいことに襲名とその時期が重なり、ほぼずっと舞台に立てた。しかも襲名を機に大きなお役に挑戦する機会も増えて、本当に1つ1つの経験が、すごく……何だろう、 身になっているというか。それぐらいの大きな経験をさせていただいた6年間だったと思います。多くのことを吸収できる大切な時期に、振り返る間もないほど走り続けるという貴重な体験ができたんです」

冷たい人や悪い人のほうをやりたい

 恥ずかしがり屋で内向的……そんな子どものころの染五郎さんは、もういない。そこにいたのは、志向も主張もハッキリした大人の男性だった。

例えば、11月〜12月に上演する松竹と劇団☆新感線がタッグを組んだ舞台「朧の森に棲む鬼」。2007年から父の松本幸四郎さんが主演を務めている舞台で、父が演じるライが、自身の命と引き換えに王の座を奪取していく物語。今回染五郎さんは、シュテンという、敵国の将を演じる。ちなみにこれまで女性の役だったものが、今回から初めて男性に変わった重要な役だ。

「何よりこの作品は芸術作品として、傑作なんですよ。例えば本物の水が流れる滝が出てきたりと、舞台美術も画期的。その芸術性の高さにも惹かれて、父の芝居のなかでもベスト3に入るほど大好きな作品です。父が演じるライもそうですが、そもそも悪役が好きなんです。冷たい人や悪い人のほうをやりたいタイプなんですよね」

次のページ 染五郎さんの家系は悪役を数多く演じてきた