
明治時代から続く老舗の「廃業」をなんとか逃れようと、後継に立ち上がった若夫婦が目をつけたのはあらゆるSNSを駆使した発信活動だった。知名度は徐々に広がり、古くさいイメージがあったお菓子の本当の魅力を再認識することにもつながる。妻とともに店を経営する古田憲司氏の著書「鯱もなかの逆襲」(ワン・パブリッシング)から一部を抜粋して紹介する。
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「元祖 鯱もなか本店」4代目
2021年1月、まだまだコロナ禍真っ只中で不安も多い時期でしたが、僕たち夫婦はほぼ廃業寸前の元祖 鯱もなか本店を引き継ぐことに決めました。引継ぎにずっと反対していた先代でしたが、全国のお客様からの声を聞き、やはり心が動いたようです。最後には「鯱もなかを頼む」と継ぐことを許してくれました。
こうして、4代目の社長に妻の花恵が就任。僕は専務取締役として妻を支えながら、経営方針などを固めるための黒子に徹することにしました。というのも、この時点での僕は会社員から独立して不動産業を行っていたので、両輪でうまく経営していけたらと考えていたのです。
夫婦で4代目として店を盛り返していく。突如として、近年社会的な課題となっている「事業承継」の当事者となったわけですが、正直右も左もわからない状態でノウハウも皆無。途方に暮れた僕は、先代夫婦と妻と一緒に名古屋商工会議所が運営している事業承継・引継ぎ支援の相談窓口を訪ねることにしました。
そこで事業承継をするためにどうしていけばいいのかを担当者に相談したのですが……、結論から言うと、すぐに起死回生に繋がるような有効なヒントは得られませんでした。
もちろん、担当者はいろいろと親身になって話を聞いてくれました。でも、結果としてあまり役に立つ情報は得られなかった。「事業承継」はさまざまなケースがあり、一筋縄ではいかないことを実感しました。
担当者に提出したのは会社の決算書です。意図的に事業を年々縮小していたので、決算書上は債務超過になっていたからでしょうか。「元祖 鯱もなか本店という会社には価値がない」、そう言われてしまったのです。