最後まで大事件は起きず、スーパースターも現れなかった。物語は、ヒロイン・黒沢心(黒木華)のキャラクターが体現するように、地味で地道ながら、熱く前向き。どんな立場の人にも敬意を払う作風は、「働く人々を応援する」純粋なお仕事ドラマそのものだった。
舞台は、ある出版社の週刊コミック誌『バイブス』編集部。編集者や漫画家に加えて、営業マン、カバーデザイナー、製版スタッフ、書店員など、さまざまな職業の人々が丁寧に描かれ、決して裏方扱いはしない。劇中の漫画も、藤子不二雄Ⓐや、ゆうきまさみなど現役の人気漫画家に依頼し、ウェブ上でも読めるようになっていた。また、「自分の立っている場所がわからないうちはどこにも行けない」「俺たちが売っているのは本だが、相手にしているのは人だ」などの「バイブス」ならぬ「バイブル」のような名言を連発。さらに、「伝える努力を惜しむな」というセリフを実践するように、キャストやスタッフが総出でツイートを繰り返していた。脱力した役の多いオダギリジョーが、いつになく熱い演技を見せていたことも含めて、作品のそこかしこから熱がプンプン。まさにヒロインのデスクに貼られた「精力善用 自他共栄」の文字どおりであり、これこそが現在のドラマ業界に足りないものなのでは……とも感じた。
それぞれの職業をリスペクトしながら一人一人の物語に熱を込めた「重版出来!」に対して、裏番組の「僕のヤバイ妻」はドラマ業界のトレンド重視。ネットの反応を踏まえ、エキセントリックなヒロインの設定に熱を込めて話題を集め、視聴者をグイグイ引っ張った。
全編に熱を散りばめた「重版出来!」と、悪女の一点に熱を注いだ「僕のヤバイ妻」。どちらが正しいとは言えないが、視聴率という指標では後者が勝ったという現実がある。しかし、視聴者の「視聴熱」は、どの口コミサイトを見ても前者が上回っているのは疑いようのない事実。スタッフやキャストの熱も、登場人物の仕事に賭ける思いも、「下町ロケット」にも負けていないだけに、「もし『日曜劇場』で放送されていたら、より多くの人々が見て視聴率も取れたのでは?」という思いがよぎった。
エンタメ重視の作品が増えるなか、地味で地道な群像劇でも視聴者を感動させられることを証明した「重版出来!」。放送終了した今も、登場人物の奮闘する姿が頭に浮かぶのは私だけではないだろう。ユニコーンが手がけた主題歌「エコー」の歌詞「一回一回刻み込まれ、染み込んでいく」、さながら心に残る作品だった。
きむら・たかし 最終回は希望に満ちた大団円だったが、周囲には「重版ロス」「五百旗頭ロス」が続出(ちなみに私は「三蔵山ロス」)。第2シリーズが大ヒットした「リーガルハイ」のように、放送枠を変えての続編なら化けるかも。