小泉今日子(こいずみ・きょうこ)/1966年、神奈川県生まれ。俳優、歌手、文筆家。著書に『黄色いマンション 黒い猫』(第33回講談社エッセイ賞)ほか。2015年、制作プロダクション「明後日」を設立(撮影/写真映像部・東川哲也)
この記事の写真をすべて見る

 「北の国から」「やすらぎの郷」などの脚本家・倉本聰が長年にわたって構想していた物語が「Fukushima 50」の若松節朗監督で映画化。出演者の小泉今日子が作品への思いを語った。AERA2024年11月25日号より。

【写真】「美しすぎるアラフィフ!「AERA」表紙を飾った小泉今日子さん」はこちら

*  *  *

「とても深いテーマだな」

 映画「海の沈黙」(11月22日公開)の脚本を初めて目にしたとき、素直にそんな想いが湧き上がってきたという。

 同作で小泉今日子さんが演じたのは、本木雅弘さん演じる画家の津山竜次のかつての恋人、田村安奈。竜次とは若い頃に別れ、現在は世界的な画家、田村修三(石坂浩二さん)と暮らす。修三の展覧会で、一枚の絵が「贋作」であることが発覚し、世間に衝撃を与える。その作品には、竜次が関わっている可能性があることが次第に明らかになっていく。1960年に日本で起きた“美術品の贋作事件”をモチーフの一つに、倉本聰さんが脚本を書き上げ、映画「沈まぬ太陽」などで知られる若松節朗さんが監督を務めた。

 美しいものを「美しい」と多くの人が崇めても、「じつは偽物だった」とわかった途端、何ごともなかったかのように評価が崩れ落ちていく。その矛盾みたいなものを、小泉さんも日々生きていくなかで感じていた。

「きっと倉本さんも同じ想いで脚本を書かれたと思うのですが、“芸術の価値”とはなにが基準になるのか、金銭的な価値や情報といったものに多くの人がとらわれすぎているのではないか、という想いが私にもあって。芸術の世界に限らず、こうしたことはさまざまな分野で起きているんじゃないかな、と」

脚本に強く共鳴

 物語自体が生まれる時代を選んでいる──。不思議とそんな感覚にもなったという。

「映画や舞台にプロデューサーとして参加しているとき、そうした気持ちになることは何度かあったのですが、この作品もまさにそうだな、と思っていて。60年もの間、倉本さんが温めてこられたので、いつ映画化の話が進んでもおかしくなかったはずですが、『この物語がいまを選んだ』ことにきっと意味がある。どんどん情報化社会になっていく、だからこそ『いま』だったのではないかな、と」

 実際、倉本さんからも「なるべく早く撮影に入りたい」という姿勢を感じ、他の作品の現場と行き来をしながら同作の撮影に臨んだという。

次のページ できることは増えた