渋谷のスクランブル交差点の上空に浮かぶキノコ雲──。AR(拡張現実)技術を使い核兵器の脅威を疑似体験できるコンテンツが8月と9月に公開された。アプリが生まれた背景には何があるのか。考案者の中村涼香さんに聞いた。AERA 2024年11月25日号より。
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東京・渋谷。この夏、渋谷駅前のスクランブル交差点に立ちアプリを入れたスマホをビルにかざすと、ビルの向こうに巨大なキノコ雲が浮かび、「核はまた、いつ使われるかわからない。」というメッセージが映し出された。
「日常生活の中で、核兵器の脅威が見えるシーンをつくりたいと思って」
AR(拡張現実)技術を使い核兵器の脅威を疑似体験できる、このコンテンツ「KNOW NUKES(核を知る)」を考案した中村涼香さん(24)は言う。核兵器廃絶に向けた活動に取り組む若者団体「KNOW NUKES TOKYO(ノーニュークストーキョー)」の代表だ。
10月、核廃絶を訴えてきた日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)のノーベル平和賞受賞が決まった。ノーベル委員会は被爆者を「歴史の証人」と呼び、自らの体験を語り核兵器使用をタブーとする価値観の確立に大きく貢献したと称えた。だが、被爆者の高齢化は進み、平均年齢は85歳超。「被爆者なき世界」は近いうち必ず訪れる。そうした中、核兵器の惨禍を伝え、核廃絶に繋げる活動を行っているのが次の世代を担う若者たちだ。
核兵器があっていい理由「出てこなかった」
中村さんもその一人。
長崎市の出身で、「被爆3世」という背景を持っている。しかし、核の問題に取り立てて関心があったわけではない。原点は、高校で入った「平和学習部」。部では核兵器廃絶を求める署名を集め国連に届ける活動を続けていて、海外に行けるという憧れから入部した。署名やデモなどを行い被爆者たちの姿を見ているうち、核兵器のない世界に貢献したいという思いが強くなった。上智大学への進学で上京し、核兵器に関する様々な考えに触れるうち、核兵器はなくさなければいけないという思いが強くなった、という。