イラスト:サヲリブラウン
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 先週号で書いた網走刑務所の脱獄犯、白鳥由栄の話を得意になっていろんな人にしたところ、『ゴールデンカムイ』を読め、もしくは観ろ! 吉村昭の『破獄』を読め!と各方面からツッコミをいただきました。己の知識不足が思わぬところで露呈して、私はエヘヘと頭を掻くばかり。不足した知識を補えるチャンスがもらえたのだから、これはこれでヨシとしましょう。

 北海道の次は栃木県の宇都宮市に行きました。こちらは講演で。参加者の反応がよかったこともあり、久しぶりにうまく話せた自分に大満足。

 思い返せば会社員時代、会議でのプレゼンも同様でした。出来不出来の半分は、聴衆の反応にかかっている。手短に話したほうが刺さる時もあれば、聞き手の頭に浮かぶ疑問を先回りして丁寧に説明したほうが好まれる時もありました。聞き手の特性から逆算してプレゼンを組み立てたほうが、よい結果を導き出せます。

 講演は、事前に参加者の特性がわからないのが難しいところ。ライブで全国を回るイベンターからは、〇〇県のお客さんは静かといった県民性を聞いたことがありますが、壇上で話していると、確かに場所によって反応の大小はあるものの、結果はあくまで一期一会の化学反応としか言いようがありません。

イラスト:サヲリブラウン

 ライブの話になると、私はいつも女子高時代の軽音楽部の出来事を思い出します。ある年、先輩のバンドが近隣の男子校の文化祭に招待され、ライブを行いました。

 演奏が始まっても、体育館に集まった大勢の男子生徒たちは椅子に座ったまま微動だにせず。これは厳しい!と後方から見守っていると、ボーカル担当の先輩が、観客に拍手やコールアンドレスポンスを求めました。反応はなし。

 それでも先輩は諦めず、何度も何度もお客さんを煽る。歌いながら舞台の上を転げ回ったりもしていました。すると数人の生徒が立ち上がり、続いてほかの生徒たちが手拍子を始め、歓声を上げ、最終的に全員がステージ前に詰めかけるほどの大盛り上がりになったのです。圧巻でした。

 プロレス観戦でもひしひしと感じることですが、きっかけさえあれば、観客は乗れる。殻を破る瞬間を与えられるかは、舞台上の人間次第。

 私の講演はノリノリで楽しむものではないものの、来てよかった!と思ってもらえるような工夫がもっとできるかも。次は新潟です!

AERA 2024年11月25日号