ブル中野はグローバルに活躍したレスラーでもあった。
92年にメキシコでCMLL世界女子王座を獲得。フリーの立場で遠征したWWF(現WWE)では評価を高め、同団体94年の東京ドーム大会でWWF世界女子ヘビー級王座奪取。95年には新日本の北朝鮮ツアーに同行したのち、96年まではWWEのライバル団体WCWに参戦した。そして引退後の01年、米雑誌「Wrestling Observer Newsletter」が選定する殿堂入りを果たす。
野球界のパイオニアと言われた野茂英雄が米メジャーリーグに挑戦したのが95年。サッカーの三浦知良がセリエA入りしたのが94年。ブル中野はそれよりも早く海外で結果を残していることになる。米国内ではMLB、NBA、NFL、NHLの4大スポーツで活躍する選手をメジャーリーガーと呼ぶ。プロレスWWE所属レスラーも同様に呼ばれるようになった。中邑真輔やASUKAなど、現在、米WWEで活躍する日本人レスラーは多いがその先駆者と言える。ブル中野は少し早いメジャーリーガーだったのだ。
ジャンルを問わずレスラーがバラエティなどに出る機会が多く、それには様々な声がある。ブルだけでなく、北斗晶や男子でも長州力、天龍源一郎、佐々木健介なども、現在はバラエティタレントに近いほどの活躍だ。しかしプロレスでの数々の実績は今、振り返ってみても素晴らしいし色褪せない。だからこそ番組などの制作サイドには、ちょっとだけ気を使って欲しい。番組内で面白おかしくイジるにしても、過去の名シーンを少しでも長く登場させて欲しい。常人ができないことをやってのけるレスラーは、リスペクトされるだけあるアスリートである。また、レスラーの凄味が多く伝われば、制作サイドからしてもよりギャップがあり、インパクトや反響も大きいはずだ。
WWE中邑真輔が当たり前にテレビCMに出る時代になった。プロレスは確実に市民権を得ている。
しかし変わらないことがある、一番すごいのはプロレスなのだ。(文・山岡則夫)
●プロフィール
山岡則夫/スポーツスペクテイター。1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌「Ballpark Time!」を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍やホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を不定期に更新中。