41歳のときに脳梗塞で緊急入院した体験をまとめた。呂律がまわらず感情抑制がきかず涙が止まらない日々。負の連続だが、興味津々で読める。
 本書が独特なのは『最貧困シングルマザー』などで取材した者たちの態度との共通点を見いだしていくところだ。落ち着きがない。目を合わすことができない。当時いぶかしんだことが今の自分に当てはまる。そこから貧困層に必要なのは医療ケアだと推論する過程が面白い。
 もどかしい日々の中、脳腫瘍の大手術を受けた妻のことも考える。巻末には妻からの「読者へ向けた手紙」が添えられ、夫の病気の結果について「良いが七、悪いが三」と書かれている。脳梗塞の病後に「性格が変わる」といわれるが、自身の脳内で何が起きたかを解析している部分は、患者をもつ家族への貴重な情報となるだろう。

週刊朝日 2016年7月15日号