「峠の我が家」左から仲野太賀、二階堂ふみ(撮影/宮川舞子)

 パンフレットにキャストたちのこんな言葉が掲載されていた。

「全体的には戦争の影を感じるというか、罪を犯した者や失った者の許しを求めて惹かれ合うようなイメージ」(仲野)

「どこに辿り着くかわからない船に乗っているような感覚」(二階堂)

「観ている間に感じさせる『何か』、曖昧で言葉にできない『何か』が、岩松さんのホンの持ち味というか、魅力なのかな」(新名基浩)

「(岩松脚本の)登場人物は必ず何か背負っていて。実像か否かの境界も曖昧だったり、さらに命や時代感も含めて描くので、本当に恐ろしい台本」(豊原功補)

「壮大な神話の一編、そんな印象を持ちました 始めがあって終わりがあるのではなく、ぐるぐると回り続ける時の流れの中にいる人達…そんなイメージも」(池津)

 ……雨を吸った落ち葉は音もたてずに人を抱きしめる。

 ……亀は人の運命を背負っている。だから歩くのが遅い。

 なんとも繊細で美しい光景が演者の口から紡ぎ出されるが、それは岩松の夢の世界の風景なのかもしれない。

 不条理な異界と現実を繋いでいたのは柄本時生演じる主人の息子正継だった。

 気遣いがあり、まっとうで、まず人のことを思う正継を足がかりに僕は筋を追いながら岩松のラビリンスの舞台を堪能した。

「峠の我が家」左から二階堂ふみ、仲野太賀(撮影/宮川舞子)

(文・延江 浩)

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