TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は演劇「峠の我が家」について。
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「岩松了」という人物が怪人であることは間違いない。
会話はもちろん挨拶もしたことはないが、何年かに一度見かけ、いつもその存在感に圧倒される。
何年も前、笄町にある隠れ家のような和食屋で誰もが知っている有名女優二人と食事をしていて、周りはその光景に緊張しながらも会話に耳をダンボにしている中で平然と食事を楽しんでいた。
紀伊國屋サザンシアターで、確か長塚圭史演出の「十一ぴきのネコ」だったと思うが、辺りを睥睨するかのように現れ、僕の隣にドンと座ったのも岩松了だった。
岸田國士戯曲賞、紀伊國屋演劇賞(個人賞)、読売文学賞など名だたる賞を受賞した劇作家であり演出家であり、俳優であり、映画監督である。
そんな岩松作・演出の芝居「峠の我が家」を見た(下北沢・本多劇場)。
峠にある一軒の旅館には主人・佐伯稔(岩松了)と息子・正継(柄本時生)とその妻・斗紀(二階堂ふみ)が住んでいる。そこに若者・修二(仲野太賀)と彼の兄嫁(池津祥子)が訪ねてくる。彼らは兄の戦友の家に軍服を届けに行くという……。
「軍服」という響きを不穏に感じた。軍服は旧日本軍のものなのか。
そういえば来年は敗戦80年である。
起承転結のある明確な物語ではない。
ストーリーは水面下で進行している。
ただ登場人物が「軍服」にこだわっているように、過去にあった戦争への恐怖がそこかしこにあるのはわかる。
次第に斗紀と若者・修二が惹かれあっているのが、うすうすわかってくる。それは許されることのない恋なのだろうか。
そんなことを考え始め、僕は次第に「岩松了」という人物の脳内を探るようになっていった。