気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。本稿では、超富裕層を顧客にプライベートバンク事業を展開するアリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏に、セレブ達の意外な暮らしぶりについて伺った。(取材・構成 ダイヤモンド社書籍編集局)
お金は「減らなければいい」
――『ルポ 超高級老人ホーム』では、入居金だけで数億円の施設に入っている富裕層たちの終の棲家が描かれていました。現役世代の「真の富裕層」はどんなところにお金をかけているのでしょうか。
篠田丈会長(以下、篠田):どこにもかけてないような気すらしますね。そういう方々は持ち家なので、家賃もかかりません。年間の生活費が数百万円もあれば十分だという人もいます。本当に普通の暮らしぶりなんです。電車にも乗るし、お昼ご飯も500円とか1000円だったりします。
昨日も資産が数十億あるお客様とお会いしましたが、全然贅沢はしてないようでした。こう言うとなんですが、ちょっとヨレヨレのTシャツを着ていたりします。
――資産が数十億円を超える超富裕層はどんな人たちなのでしょうか。
篠田:先日お会いしたのは50代くらいの方ですが、元々は事業をやっていたそうです。でも、会社を売却したため資産が増えたとのことでした。
会社を売ってしまったので何もやることがないし、元々お金を使う暮らしもしていなかったから、増えても全然使わない。では、増えたお金をどうするのかというと「減らなければいいんです」と話していました。
――だとすると、どんなところにお金を使っているのでしょう。
篠田:結局、投資をやっている方が多いですね。でも、投資をやってるとどうしても相場が気になってストレスになってしまう。
昨日お会いした方も10年ぐらい投資をやってるんですけど「もう疲れた」って言うんです。相場が上がっても下がってもずっと気になりますもんね。だから、お金を預けてお任せにできるところを探していました。
「10年ルール」に翻弄される富裕層
――投資で増えたお金はどうするのでしょうか。
篠田:お子さんがいる方であれば、相続することになると思います。ただ日本だと、相続税がかなりかかります。そのため、富裕層の方々の中には相続税対策として10年以上海外に住む方もいますね。
いわゆる「10年ルール」と言って、海外に10年以上暮らした人の資産は相続税の対象外になることもあるのです。東南アジアに移住される方が多いですね。
――相続税対策とはいえ、10年間海外で暮らすのは大変そうです。
篠田:はい、楽しくないと思いますよ。英語が話せないと仕事もできないですし、やっぱり孤独を感じてしまうと思います。先日会った方も仕事はしておらず、「海外へ移住して5年経ったけど、料理も合わないし、まだ5年もあるのか」と嘆いていました。しかも、資産を継がれるお子様も海外に行く必要があるんです。節税対策とはいえ、かなり難しい決断ですよね。
ただ、やはり病気になったり体に不都合が出てたりすると、皆さん日本に帰国してきます。現地の病院に入るのって想像以上に不安が大きいんです。私も海外の病院に入ったことがありますが、英語が話せたとしてもやはり日本の病院のほうが心地いいですね。安心感は何物にも代えがたいんです。