膨らみ続ける日本の「デジタル赤字」。赤字が続く最大要因は、米巨大IT企業などが提供するデジタルサービスへの支払いが増大しているためだ。その額は、2023年で約5.5兆円と過去最大を更新。空前の「国富の流出」の影響は個人の生活にも及ぶ。このまま「デジタル小作人」の身に甘んじていいのか。AERA 2024年11月18日号より。
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「あらがえないな、と感じています」
こうこぼすのは、パソコンレンタル大手「レンタルバスターズ」(東京都中央区)の佐川一平専務。同社を悩ませているのは、米国のIT大手、マイクロソフトに支払うソフト使用料の相次ぐ値上げへの対応だ。
マイクロソフトが開発・販売している文書作成ソフトの「ワード」や表計算ソフトの「エクセル」などを含む業務用ソフト「マイクロソフト365」は今やビジネスに不可欠なアイテムだ。年間約10万台のパソコンを法人向けに貸与している同社も、このソフトをあらかじめ搭載したパソコンを提供している。市場をほぼ独占するこのソフトの使用料が近年、ものすごい勢いで上昇している事実を知る人はどれくらいいるだろう。
「今年は20%、昨年も18%値上がりしました。2年連続で約2割の上昇は通常あり得ません。正直、きついです」(佐川さん)
ソフト使用料はパソコンのレンタル価格に上乗せして徴収するため、顧客の法人からは「また値上げですか」という苦情めいた声を受けることも多い。
「それでもマイクロソフト製品は完全にビジネスに組み込まれていますから、仕方なく受け入れていただいているというのが実情です」(同)
問題は今後も先高感がぬぐえないことだ。
「ソフト使用料がこの2年急上昇した理由については、円安の影響だという説明を受けています。しかし、円高になれば値下げしてくれるとは思えません」(同)
理由の一つが、EUでの動きだ。マイクロソフトはマイクロソフト365にオンライン会議サービス「チームズ」も合わせて販売していた。この販売方法について競合企業が苦情を申し立てたため、EUの執行機関「ヨーロッパ委員会」が昨年、競争法(日本の独占禁止法に相当)違反の疑いで調査に着手。これを受け、マイクロソフトは今年4月に「チームズ」と、業務用ソフト「マイクロソフト365」のセット販売を全世界で取りやめると発表したのだ。