最終滑走者として臨んだフリー本番、坂本は、闘志を感じさせる面持ちでスタート位置についた。好調に滑り出し、スケートカナダで転倒したダブルアクセル―オイラー―3回転サルコウも決める。
「オイラー―サルコウができたあたりからちょっとずつ、自分のペースになっていきました」
スピンを挟んで、最大の得点源である3回転フリップ―3回転トウループを跳ぶ。
「もう思い切って、『後半どうなろうとこの3-3はとにかく決めよう』という気持ちで挑んで。『自分の中でベストな3-3が跳べたかな』と思って、そこから後半に向けてはしっかり曲に乗ることができました」
音に合わせた粋な振り付けも、スケートカナダより際立つ。フィニッシュで体勢を崩しかけ、本来とは違うポーズで終えたのはご愛敬だったが、今季世界最高得点となる152.95をマーク。世界女王の貫録漂う、圧巻のフリーだった。
フリー後、坂本は充実した表情で演技を振り返った。
「かなりハードなプログラムなので、今まではやっぱり『なるべく、息が上がるのをゆっくりにさせよう』とか『とにかく前半抑えて』ということを常に考えてしまっていたんですけど、それをすることによって守りに入ってしまうことになる。今日は『前半からぶっ飛ばしていこう』と思って、気負わず攻めの態勢でいけたのが、良かった点かなと思います」
「とにかく今日は楽しんでやろう」という気持ちで挑んだという坂本は、シーズン前半にして、難しいフリーを自分のものにしつつある。GPファイナル、そして全日本選手権で、『All That Jazz』がどんな進化をみせるか、楽しみでならない。(文・沢田聡子)
沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。フィギュアスケート、アーティスティックスイミング、アイスホッケー等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。2022年北京五輪を現地取材。Yahoo!ニュース エキスパート「競技場の片隅から」