「シン~」や「2.0」なども、新書のブームの頃のビジネスや自己啓発など、何でもありの時代ならあったかもしれないが、角川新書としては教養を軸に展開していくので、その手法は取りたくないと言う。
「流行りの言葉に乗ることで逆に作品の可能性を狭めてしまうのではないかと。それよりも本の内容をわかりやすく、新鮮な言葉で表した方が読者に伝わると考えています」と岸山さんは話し、続けて、
「タイトルは作品中の言葉という原石を磨いて、一番輝いた宝石をつなぎあわせて読者にお見せしているようなものです」
岸山さんはそうほほ笑んだ。
心に響くタイトルに
本誌「AERA」を発行している朝日新聞出版にも新書がある。そこで「朝日新書」編集長の松尾信吾さんにも聞いた。
「どんな本であるかという内容がわかり、切り口が際立っているかを軸に、端的なタイトルにするようにしています」と話す。新書は雑誌的な側面もあるので時流や今をテーマにし、トレンドにあわせてタイトルを決めることも多い。朝日新書には『シン・男がつらいよ』(奥田祥子)、『日本のシン富裕層』(大森健史)など“シン”がタイトルにつく書もある。
「その時の新しさを見せたいと考えたからです。“シン”の波が大きいと感じたので躊躇(ちゅうちょ)はなかったです」
最近の傾向として、あまり捻ったものではなく、わかりやすさが求められているとも感じている。その上で漢字の熟語をベースに、『裏金国家』(金子勝)、『進路格差』(朝比奈なを)、『電話恐怖症』(大野萌子)、『政治部不信』(南彰)など強い文字が並びつつ、ストレートな表現のタイトルにすることも多い。
「読者の心に響くタイトルになればといつも心を砕いています」と松尾さんは力強く語った。(ライター・鮎川哲也)
※AERA 2024年11月11日号より抜粋