技術力の対決ではなく、波選びの対決。それは、波の運次第になるもどかしさも予感していた。それでも波を信じて、ラウンド3がスタート。アグレッシブに1本目の波をつかみに行ったが、点を作れなかった。
「五輪を楽しみすぎちゃって、良い波を待てば良かったのに、必要のない波に手を出してしまいました。『ミスしたな』と思ったら、相手も『カノアがミスしたな、勝つなら今だ』という顔をした。次の波で、相手に9.9の点を作られてしまいました」
一つの技の最高点は10点。9.9は稀に見る高得点だった。
「作戦を立て直さなければならず、自分も9点台の良い波を探しました。でも、そういう波は最後まで来ませんでした」
落ち込むのは1時間
力を発揮するチャンスはなく、自身2度目の五輪が終わった。
「一つのミスで全部のリズムが変わってしまうのが、サーフィンの難しさ。でもそんなものでもある。東京五輪のような技術で勝負する波で負けたら、自分が足りなかったことが悔しい。でも今回は、準備は十分だったし、自分の中でこれ以上出来ることはなかった。だから、ホッとしたのかもしれません」
もともとサーフィンは自然相手のスポーツ。敗戦を悔やむより、そこからどう切り替えるかに集中した。
「どんな試合でも『落ち込むのは1時間』というルールを作っています。負けたことの重みを感じるのは大切なこと。でも1時間たったら『OK、もう落ち込んだ。これ以上悔やんでも良いことは無い』と自分に言い聞かせるんです」
パリ五輪を終えた夜も「1時間」のルールを自分に課した。
「切り替える一つの方法として『負けた時は、上手くなるチャンス』と考えます。足りない部分があるなら、それを見つけて直せばもっと上手くなる。そう考えると、ミスを探して研究するのは楽しい時間になります」
次への成長のために、得たものは何か。
「変な波に手を出した1本目のミスは次に生かせる反省点。もっと細かく波を見ることは大切だったと思います。でも10回やれば、7回勝って3回負けるような波でもあった。今回は負けたけど、自分のすべてを否定する必要もない。技術を高めきって臨んだ自信は継続していくべきだと感じました」
パリ五輪が終わった夜には、もう次の夢を抱いていた。
「もう一度、チャンスが欲しい。2回の五輪に出た経験で分かったこともある。やっぱり五輪の金メダルが欲しいです」
(ライター・野口美恵)
※AERA 2024年11月11日号より抜粋