たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 僕自身、メディアで金融教育について話す際には、社会全体の問題にどう向き合うかを中心に話している。たとえば、老後資金の話題では、「2千万円をどうやって貯めるか」という個人の資産形成に焦点が当たりがちだが、将来の労働力人口の減少こそが本質的な問題だ。いくらお金を貯めても、人手が不足すれば介護サービスなどを受けることが難しくなる。

 お金は生活を支えるためのツールに過ぎず、それ自体が解決策ではない。少子化対策や技術革新による効率化など、社会全体の仕組みを改善する必要がある。

 この話をユーチューブで発信したとき、さまざまなコメントが寄せられた。賛同の声も多かったのだが、同時に「そんな難しい話より、資産形成に取り組めばいいんだよ」という意見もあったりする。もちろん、個人の資産形成が重要であることは理解しているが、社会全体の課題とバランスを取ることも必要だ。

 そうしたさまざまなコメントの中で最も印象的だったのが、冒頭で触れたコメントだった。「若者です。頑張ります。日本の未来は僕たちが変えます。」このメッセージには、桁違いに多くの「いいね」がつき、圧倒的な支持を受けていた。金融教育は日本ではまだ始まったばかりだが、「何を教えるか」だけでなく、「どういう人を育てるか」を忘れてはならない。そして、「いいね」が多くついた事実は、生徒たちにとっても「自分のお金のため」だけでなく、「未来の社会のため」に行動した方が、協力者が現れやすいことを示している。

 若い人には、閉塞感のある日本の未来をぜひ変えてもらいたい。

AERA 2024年11月11日号

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