僕自身、メディアで金融教育について話す際には、社会全体の問題にどう向き合うかを中心に話している。たとえば、老後資金の話題では、「2千万円をどうやって貯めるか」という個人の資産形成に焦点が当たりがちだが、将来の労働力人口の減少こそが本質的な問題だ。いくらお金を貯めても、人手が不足すれば介護サービスなどを受けることが難しくなる。
お金は生活を支えるためのツールに過ぎず、それ自体が解決策ではない。少子化対策や技術革新による効率化など、社会全体の仕組みを改善する必要がある。
この話をユーチューブで発信したとき、さまざまなコメントが寄せられた。賛同の声も多かったのだが、同時に「そんな難しい話より、資産形成に取り組めばいいんだよ」という意見もあったりする。もちろん、個人の資産形成が重要であることは理解しているが、社会全体の課題とバランスを取ることも必要だ。
そうしたさまざまなコメントの中で最も印象的だったのが、冒頭で触れたコメントだった。「若者です。頑張ります。日本の未来は僕たちが変えます。」このメッセージには、桁違いに多くの「いいね」がつき、圧倒的な支持を受けていた。金融教育は日本ではまだ始まったばかりだが、「何を教えるか」だけでなく、「どういう人を育てるか」を忘れてはならない。そして、「いいね」が多くついた事実は、生徒たちにとっても「自分のお金のため」だけでなく、「未来の社会のため」に行動した方が、協力者が現れやすいことを示している。
若い人には、閉塞感のある日本の未来をぜひ変えてもらいたい。
※AERA 2024年11月11日号