暑さがようやく収まり、涼しくなってきた。深まる秋にこそ、手に取りたい本がある。「読書に救われ、壁を乗り越えてきた」というバスケットボール選手・寺嶋良さんが、人生の支えになった本を語る。AERA 2024年11月11日号より。
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僕にとって本は、悩みを相談する友達であり、教えを請う先生であり、自分を強くしてくれる武器や鎧でもあります。
人生の岐路に立ったときに必ず読むのが『大富豪からの手紙』です。大学4年生で進路に迷っていた時期に出合い、人生に対する考え方を大きく変えてくれました。
主人公が大富豪である祖父から九つの手紙を受け取るのですが、それぞれに「偶然」「決断」「直感」「行動」「お金」「仕事」「失敗」「人間関係」「運命」と、人生にまつわるテーマとそのヒントが書いてあり、手紙を通して成長していく物語です。偶然を必然と捉える考え方や直感を信じること。プロ入り前や所属チームの移籍など、僕が迷ったり悩んだりしたとき、この指針が背中を押してくれました。大きな決断を迫られたときに手に取る大切な本です。
『運転者』も同じように人生の指針として好きな本。「運」を題材に、うまくいかない人生を嘆く主人公が不思議なタクシー運転手との出会いから自らを見つめ直していきます。「運は貯めるもの」「報われない努力はない」。スポーツ選手にとって「努力」や「運」は大事な要素ですが、僕がそれまで考えてこなかったような捉え方が書かれていて、どの言葉も覚えておきたいと思うほどに感銘を受けました。
エッセイで人生のぞく
バスケットボール選手として力になったのは『夏美のホタル』。当時の僕はシュートがまったく入らず、スランプに陥っていました。原因は何かと、フォームを変えるなど試行錯誤したのですが、さらに入らなくなって。そんなときにこの小説で初めて「神は細部に宿る」という言葉を知ったんです。登場人物の仏師が、師匠から「爪の先ほどでも妥協はするな」と教えられるんです。細かなところを見つめ直していったら、シュートが入らなかったのは僕の爪が割れていたことが原因でした。うまくいかないときこそ細部に目を配る。この言葉には救われました。