暑かった夏が過ぎ、ようやく涼しくなってきた。木々が色づき、深まる秋。そんな時こそ、手に取りたい本がある。人生を支える言葉に出合い、新しい発見と気づきによって広がる世界を堪能したい。俳優の鈴木保奈美さんが、おすすめの本を語ってくれた。AERA 2024年11月11日号より。
この記事の写真をすべて見るよりよく生きるヒントを発見
原田マハさんの印象派の画家をテーマにした小説が好きで、舞台もヨーロッパやアメリカのイメージが強かったのですが、『板上に咲く』は日本の、それも東北から始まる、板画家・棟方志功さんのお話です。棟方さんというと、子どもの頃、実家のカレンダーで見たな、という程度の知識しかありませんでした。この小説では、菩薩を題材に連作に取り組む芸術家の、不器用で骨太な生き方、精神論に触れることができます。ゴツゴツとして見える作品の線は作家の骨や筋肉が投影されているように感じられ、大地を踏みしめて生きていた人間像が浮かんできます。読み終えた時には、ぼんやりとしか知らなかった棟方志功が一人の芸術家として、まさに作品と同じように、くっきりした輪郭でドンと見えてきました。
加藤シゲアキさんの『なれのはて』は、テレビ局員の男性が主人公で、メディアで働く人の葛藤や、組織で働くとはどういうことか考えさせられます。私もテレビ局は身近なので面白く読み始めたのですが、実はそこだけに留まらず、全く違う世界にひょいと連れていってくれる。太平洋戦争時の東北への空襲の話、古い名家の因習にまつわるミステリーや家族間の葛藤など、たくさんの要素が詰め込まれていますが、見事に流れるようにストーリーが構成されていて、「この先、どうなるの?」と気になってノンストップで一気に読んでしまいました。気づいたら午前4時になっていました。