AERA 2024年11月11日号より

VERYの主役に変化

 次女が1歳半ぐらいになった頃、家でピアノを教え始めた。生きがいが欲しかったという理由もあるが、ずっと心にあった「働く女性でいたい」との思いも強かった。職業欄に「主婦」ではなく「ピアノ教師」と書きたかった。

 それ以来、「働く女性」との自負はあるものの、教え子が多くないため、夫の扶養から外れたことはない。それでも3人の子育ては誰かが担わなければならないし、自分以外に頼めば費用が発生するはずだ。だから「扶養家族」という言い方には違和感を覚えるし、役所や学校からの連絡が夫宛てにくることも「おかしいのでは」と感じるという。

 女性の専業主婦願望などについて研究してきた跡見学園女子大学の石崎裕子准教授(社会学)は、女性雑誌「VERY」(光文社)を主な研究対象としている。1995年の創刊当時は専業主婦向けの内容だったのに対し、近年は「働くママ」もターゲットに。「いまは『主婦以外の私』も欲しいと感じている人が多いのでは」と分析する。

 アンケートに答えてくれた女性たちの話を聞いていると、ほとんどが自身の母親の話になる。

 静岡県に暮らし、8歳から2歳までの3人の子どもを育てる女性(42)は自営業で働く母親を見て育ったため、大人になったら「働くのが当たり前」と思っていた。だから、結婚した後も夫に金銭面ですべてを頼りたくなくて、財布は基本的には別にしてきたという。

 そんな女性だが、約10年前、上司からのパワハラを受けて仕事を辞めて専業主婦になった。うつ病と診断され、3カ月ほど自宅で療養したが「ずっと家にいると逆にうつがひどくなりそう」とすぐに別の仕事を探したという。

母親の生き方が影響

 一方、女性の妹は「お母さんが働いていて寂しかったから子どもにはそんな思いをさせたくない」と出産のタイミングで退職した。「妹が専業主婦になりたかったなんて知らなかったので驚きました」

 女性はいま研究所で任期付き職員として働く。子どもたちと向き合う時間がなかなか取れないこともあり、「やりたいならやればいいよ」と自主性に任せてきた。「この習い事をするにはいくら必要で、そのためにはお母さんが何時間働かないといけないか」も伝える。そうすると子どもの習い事への真剣度も変わる気がするという。

 一方、妹の子どもたちは「転ばないように」と育てられ、行儀が良く、何をするにも「お母さん、やっていい?」と尋ねる。

 母親が働いているから、子どもも働く道を選ぶとは限らないものの、女性たちの生き方は次世代に大きな影響を与えているようだ。

(フリーランス記者・山本奈朱香)

AERA 2024年11月11日号より抜粋

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