10年間専業主婦生活を送った後、三女が幼稚園に入るのを機にハローワークで仕事を探し、午前10時から午後3時勤務のパートに就いた。その後、子どもたちの成長とともに勤務時間を延ばしていき、契約社員を経て、現在は正社員として働いている。
仕事復帰後、初めて手にした給料の嬉しさをよく覚えている。「お母さんが稼いだお金」で家族にご馳走したという。
この女性は、NHKの連続テレビ小説「虎に翼」を見ていて、仕事と家庭の両立に苦労する主人公、寅子に共感したという。ただ、以前の自分だったら専業主婦の花江に自分を重ね合わせていただろう、と話す。
「介護や育児など抜け出せない状況があり、『誰かのために生きる』という生き方もあっていいと思うし、認められるべきだと思う。男性版の『花江』がいてもいいですよね」
女性の専業主婦願望などについて研究してきた跡見学園女子大学の石崎裕子准教授(社会学)は、こう指摘する。「子育てや家事、配偶者の転勤など様々な理由で仕事を辞める人がいるが、妻側が辞めることがほとんど。ただ、専業主婦としての経験が、再就職や起業、地域活動など次のキャリアを考えるきっかけになったという女性もいるだろう。本来は、誰もが、 仕事だけ、家庭だけではなく、その両方を行ったり来たりしたり、仕事や家庭以外の活動や学びなど複線的な生き方・働き方をすることができる社会が理想ではないか」
また、子どもに障害があるなどの理由で仕事を辞めざるを得ない人がいることについても「家庭で母親がひとりで抱え込むのではなく、社会で支える仕組みが必要」と話す。
(フリーランス記者・山本奈朱香)
※AERA 2024年11月11日号 より抜粋