この思いは、染織の産地を訪れるたびに強くなります。伝統を大切にする姿は素晴らしいのですが、「こうしないといけない」という思いが強いと、時代の流れについていけないのではないか。染めの技術にしても、織りの技術にしても、たとえ今の時代に合ったやり方を取り入れたとしても、本来のよさは失わずに、未来へと伝えることはできるはずだ。そうやって伝統をアップデートしていくことも大事ではないかと思います。
私はよく、海外に行きます。それは、若いときに留学して気付いた日本文化のよさ、着物に抱いた熱い気持ちを思い出し、自分がなにをしたかったのか、立ち返ることを忘れないようにするためです。伝統は極めて大事ですが、それを守るだけでは、本当の文化の継承はできないかもしれません。
常にあたらしいものを取り込む気概を持っていたいと考えています。
仕事は着物、家では浴衣
私は仕事場では基本的に着物を着ていますが、自宅でも浴衣をよく着ます。家のなかで着るリラックスウェアとして部屋着感覚で愛用しており、洋服と同じようにハンガーにかけて、クローゼットのなかに収納しています。洋服も浴衣も、大事なワードローブ、というわけです。
リラックスして着るものなので、帯はあまりしっかり締めず、伊達締めだけで気楽な雰囲気で着ています。ただ、寝間着にはしません。着崩れちゃいますから。
夏場、エアコンの効いている部屋で着る浴衣は、実はとっても快適なんです。体全体を覆うため、冷房の風から守ってくれますし、汗はしっかりと吸収するので、ガウンとしても最適です。お祭りの日にだけ浴衣を着るのではもったいない。普段から気軽に着ると体にもなじんでくるので、ぜひお試しください。
また、最近は、和服・洋服どちらにも合わせやすいデザインの草履を買いました。草履は、実はパリコレでもデザイナーが好んで選ぶアイテムで、和と洋を合わせたスタイリングの評判が高いです。和と洋で合わせる流れがあるのは嬉しいことです。しっかりとつくられた草履は履き心地がよく、機能的にも優れていて、サンダル感覚で履けるので気に入っています。
(構成 生活・文化編集部 森 香織)