俳優、作詞家、小説家と多様な才能を持つ阿木燿子さんは、落語家の桂文枝(当時、桂三枝)さんらとともに、07年10月の秋の園遊会に出席した。
和服を着慣れた桂文枝さんは、貫禄の紋付羽織袴。横に立つ阿木燿子さんは、白地に配された流水に白い花が染め上げられた訪問着に、萩を散らした唐織の帯を合わせた着こなしだ。
原さんは、訪問着の花の柄に白い胡粉(ごふん)を塗ることで艶を抑えた質感に仕上がっているため、布地の白色との質感の違いを楽しめる、と話す。
芸能人たちの「個性」が光る着物
06年の春の園遊会に出席した、俳優の木村佳乃さん。当時、天皇陛下だった上皇さまと笑顔で話す木村さんは、大胆な古典柄の振袖を着用している。
「これほどの染味を持つ反物は、現代の呉服店では見られません」
と原さん。木村さんの家に伝わる着物ではないか、と見る。
「この大胆な柄の反物を見て、振袖を着想したことが素晴らしいと思わせてくれる着物。縫い目で柄が繋がる『絵羽(えば)』に固執しない、大らかな時代のお振袖だと思われます」
園遊会にたびたび招待される著名人も珍しくない。タレントの和田アキ子さんは、06年、18年と招かれ、それぞれ着物で出席している。
06年は、ごく薄い灰桜の訪問着だが、見応えのある品だ。
「桃山時代から江戸中期にかけて流行し、尾形光琳らに代表される日本美術の流派「琳派」の色紙取りを図案とした着物です」
園遊会に馴染む地色ながら、和田アキ子さんの個性を引き立てている。
14年11月の秋の園遊会に出席した、歌手のイルカさんの着物はユニークだった。
国際自然保護連合の親善大使を務めるイルカさんが着用したのは、生物の多様性をテーマに、作家に依頼したオリジナルの訪問着。
描かれたタヌキを見つめた上皇后美智子さま(当時は皇后さま)は、
「ああ、ここにおりますね」
とほほえみ、周囲はあたたかな空気に包まれた。
流水に紅葉の柄が、見る人に「竜田川」を連想させる組み合わせだと、原さんは話す。着物と帯を同じ作家さんが染め上げているので、テイストが統一されているという。
「帯に鬼か河童に似た妖怪のような生き物が覗いているのは、イルカさんのユーモアゆえでしょう」