被災者宅の「被災診断」の現場。泥は重量があり、被災者が自力で掻き出すのは困難。災害ボランティアも手伝う(写真:吉村誠司さん提供)
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 大地震から生活再建の途上で再び災害に見舞われた石川県能登地方。地震の影響で土砂災害が多発するなど豪雨の被害も拡大したが、ハード面だけでなく、ケア力が弱っていた地域を危機的状況に追い込んでいる。AERA 2024年10月28日号より。

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「家の中が川になっていて浸水が止まりません!」

「次の雨で、家下の土砂が削られたら家が崩れる!」

 9月下旬に発生した能登半島の豪雨災害。被災者や災害派遣医療チーム「DMAT」、災害ボランティアセンターから緊急依頼を受け応急対応を進める“災害現場の助さん”こと、吉村誠司さん(59)は今、傾きかけた家の倒壊防止や貴重品捜しなどに追われている。災害支援NGO「ヒューマンシールド神戸」代表を務め、阪神・淡路大震災、東日本大震災、九州北部豪雨災害など、あらゆる被災現場の技術ニーズに応えてきた。今回の能登豪雨は、「地震による地盤の緩みや亀裂の影響がかなりある」と「複合災害」の恐ろしさを語る。

「地震では持ちこたえた家が、豪雨による土砂崩れでつぶれた事例もある。中学校の運動場から流出した砂が、下の方の道の駅周辺を埋めた現場も見た。地震と水害が複合的に発生したことで、被害を増大させていると感じます」

地震で半壊、新しい畳を入れた翌日に自宅が水没

 気象庁が能登地方に大雨特別警報を出したのは、9月21日の正午。石川県によれば10月9日時点で死者は14人。浸水被害は398棟に上った。被害が大きかった輪島市では6河川が氾濫。20カ所の避難所が開設され、8日時点で406人が避難生活を続ける。

 同市の元岡則子さん(79)は、氾濫した河原田川沿いにある自宅で被害に遭った。2階建ての1階部分は完全に水没。家具は泥だらけになった。

 正月の地震の時は半壊になり、市外の息子宅に避難していた。断水していた上下水道が復旧して5月末に自宅に戻り、開かなくなった玄関扉のサッシを直し、家屋の修繕を進めていた。

 新しい畳に入れ替えたのが20日の午後。川が氾濫したのはその翌日だ。元岡さんは呆然(ぼうぜん)とした口調で言う。

「青畳が泥水にすっかり浸(つ)かってしまって、もう人生、次に何が起こるかなんてわからない。ケセラセラですわ」

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