皆さんは子どもの頃、「いいまちがい」をした経験はありませんか? よく聞くものだと「トウモロコシ」を「トウモ"コロシ"」と言い間違えたり、「台風一過」を「台風一家」と勘違いしていたり......。成長する過程で誰しもひとつやふたつ言い間違いをして、家族や友だちに笑われた経験があるかと思います。
そうした「いいまちがい」を、ただの"面白いネタ"として捉えるのではなく、「なぜ言い間違えたのか」「どうしてその表現になったのか」を言語学の視点から分析した一冊『きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集』が出版されました。読むと、子どものふとしたかわいい「いいまちがい」に言葉の本質が詰まっていたのだと気付かされます。
例えばこんな「いいまちがい」が同書で紹介されています。
「2歳のお子さんのお話です。お菓子がないときに、『お菓子あんない』とずっと言っていたそうです。これは他のケースでも同様で、おもちゃがないときも『おもちゃあんない』と言っていたとのこと」(同書より)
何かが「ない」ときに「あんない」を使用しているようですが、いったいなぜなのでしょうか......? 言語学専攻でPodcastチャンネル『ゆる言語学ラジオ』の話し手を務める著者・水野太貴さんは、こう分析します。
「きっと、『食べない』『行かない』のように、動詞の後ろに『ない』をつければ否定形が作れることは分かっていたのでしょう。そこで『ある』の後ろに『ない』をつけて『あんない』としたのです(中略)この子ではなく日本語のルールが悪いのです。というのも、日本語では基本的に『ない』をくっつければ否定形ができあがるのですが、なぜか『ある』にはつけられないからです」(同書より)
「なるほどー!」と思わず膝を打ちたくなりませんか? 言われてみればそうですよね。大人になると何も考えずに使えるようになっていますが、習得している最中は頭の中でこうした試行錯誤があり、間違えながら成長してきたのだなと思うとなんだか感慨深いです。もし現在、日本語以外の言語を習得中の人なら、間違えてもいいからどんどん使っていこうとポジティブな気持ちにもなれるはず。
ほかにも、以下のかわいい「いいまちがい」が紹介されています。
「『パパ、いらなかったよ!』2歳
家の中でかくれんぼをしていたときのこと。お母さんは見つけられたんだけど、お父さんがなかなか見つからない。そんなとき、子どもはお母さんに嬉々としてこう報告したんだとか(中略)
動詞の活用というのは、日本語母語児にとっては大問題です。『居る』と『要る』は音的にはまったく同じですが、活用は異なります。ほかにも『切る』と『着る』なんかも、『切らない』『着ない』と異なる活用をします」(同書より)
「いらなかった」と言われた瞬間のパパを想像すると思わず笑ってしまう「いいまちがい」。その中にもこんな気づきが隠れていたのですね。こうした解説のあとには、人気イラストレーター・吉本ユータヌキさんの挿絵が添えられており、「いいまちがい」の様子がより面白く、そして愛らしく表現されています。
同書ではほかにも、「アハンアハン、アハンアハン」や「ぼくがよるにするね」、「ひいおばあちゃーん! しんぱくないー!?」など、読み終わったあとも思い出し笑いをしてしまうような「いいまちがい」が盛りだくさんです。タイトルにもある「きょう、ゴリラをうえたよ」も、「そういうことか!」と感心してしまう内容なので、ぜひ同書で確かめてみてください。
[文・春夏冬つかさ]