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 岡山県の瀬戸内海に面した港町・牛窓。映画作家の想田和弘と妻でプロデューサーの柏木規与子はニューヨークを離れ、2021年に牛窓に移住した。想田は神社「五香宮」に集まるたちにカメラを向けはじめる。そこには糞尿被害や高齢化、共存の難しさなど世界の縮図が映り込んでいた──。「五香宮の猫」の監督である想田和弘に本作の見どころを聞いた。

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 牛窓移住のきっかけはコロナ禍です。2020年4月に緊急事態宣言下で東京に閉じ込められ、あまりの閉塞感に妻の柏木と牛窓に逃げた。牛窓は妻の母の故郷で「牡蠣工場」「港町」を撮った場所です。着いてすぐにパーッと視界が開ける感覚があり「このままここにいたい!」と決意しました。

 撮影はいつもと同じく自然にスタートしました。近所の五香宮にたくさんの猫がいて「猫神社」と呼ばれ観光客も訪れるほど人気だけれど、一方で糞尿被害に困っている人もいる。お互いの妥協策として一斉捕獲し避妊去勢手術をする活動に妻が参加することになり、カメラを回しました。すると五香宮にいろんな人が出入りすることがわかってきた。みな思い思いに掃除をしたり花を植えたり。かつ神社は自然や古いものを守る装置にもなっている。この愛おしい空間をタイムカプセルのように残しておきたい、と本作を作りました。

 移住後は人生で初めて自治会に入り、発見もありました。人間はやっぱり一人では生きていけない。特に狭い共同体では異なる意見でも相手を論破したりせず、極力対立を避け「まあまあ」と収める。それが伝統的な共同体維持の知恵で、人はずっとそうして生きてきたのだと思います。もちろん光があれば影が出来ます。伝統社会はやっぱり男社会でジェンダーなどという概念はあまりない(笑)。でも変化を起こそうとしているわけではありません。世代が変われば変化は自然に起こるでしょう。


想田和弘(製作・監督・撮影・編集)そうだ・かずひろ/1970年、栃木県生まれ。「観察映画」の手法とスタイルでドキュメンタリー11本を発表。『猫様』(発行:ホーム社/発売:集英社)が発売中。全国順次公開中(写真/写真映像部・和仁貢介)

 よく見てよく聞くことが僕の観察映画のモットーです。今回も半径200メートルほどの小さい世界を観察することで、より大きな世界の構造が反映されたのではと感じています。ぜひ五香宮に集う猫や人の視点で世界を眺める時間を体感してもらえればと思います。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年10月28日号