学生生活の支えとなる奨学金。けれど、卒業後に返済に苦しむケースは多く、社会問題になりつつある。そんな中、福利厚生の一環として奨学金の肩代わり返済を打ち出す企業が増えている。
【写真】「奨学金肩代わり企業」が就活生に人気 全国2000社以上に広がる
この記事の写真をすべて見る学生の2人に1人が奨学金を借りている
「第二種奨学金(有利子)を借りていましたが、今となっては総額がわかりません(笑)。ただ、月々5万円を3年間借りていたため、利子を含めると200万円くらいでしょうか? 卒業してまもなく10年ですが、今も毎月1万5000円が自動的に口座から引き落とされています」
そう語るのは、通信系の企業に勤める小金井麻衣子さん(33・仮名)。学費の値上がりが続く中、日本学生支援機構(以下、JASSO)が公表した「令和2年度学生生活調査」によると、学生の2人に1人が奨学金を借りているとされている。返済に追われている社会人は大勢いる。小金井さんは、こう続ける。
「『その程度の額なら……』と思うかもしれませんが、大変なのは社会人になって数年間です。手取りは20万円もいかないのに、そこから奨学金と家賃が引かれていくため、なにを食べていたのかも記憶にないほど、お金のやりくりには苦労しました。3年目くらいで限界を覚え、JASSOに電話して、『経済的に困窮している』という理由でおよそ2年間、返済を止めてもらいました」
奨学金を借りて大学を卒業し、社会人になってからその返済に苦しんでしまう――。小金井さんのような若者は、決して珍しい存在ではない。
福利厚生の一環で「奨学金編成」
いま、社員が学生時代に借りた奨学金を「肩代わり返済」する企業が増えている。福利厚生の一環として、毎月の返済額を会社が代わりにJASSOに振り込んでくれるのだ。2021年に企業がJASSOへ奨学金を直接返済できるようになったのを機に、この制度を導入する企業が一気に増加した。
福岡市南区に本社を置き、配電線、屋内線、空調・給排水などの設備工事の施工管理・設計を主な事業とする、九電工も今年から「奨学金返還支援制度」を始めた。同社の人事課の担当者は、こう語る。
「この制度は24年4月1日から、26年の間に入社した新入社員が対象者となります。弊社が属する建設業界は需要が高まっており、採用の競争力を強化すると同時に優秀な人材の確保、そして離職防止につなげて、会社の魅力を向上させたいと思っています。さらに社員たちの経済的・精神的負担を軽減して、安心して働くことができる環境づくりのために、この制度を導入しました」
同社では10月から社員の奨学金の返済が始まる。その仕組みはどうなっているのだろうか? 九電工の人事課の担当者は、次のように解説する。
「返還の上限は月1万5000円で、それを10年間肩代わりしていきます。例えば毎月2万円の返済がある社員の場合は1万5000円を弊社が払い、残りの5000円は給料から天引きする形になります」
内定者からの評判は「すこぶる良い」
企業にとっては、それなりの支出だが、内定者からの評判はすこぶる良いという。
「内定者に取った複数回答のアンケートでは、奨学金を借りている内定者の75%が内定を承諾する検討材料になった、と回答しています。これからも説明会や学校訪問でも強調して説明する予定です。また、返済期間は10年までと定めています」(九電工・人事課の担当者)