日本のファンタジー小説の原点といわれる『南総里見八犬伝』が現代に蘇った。出演する役所広司さんと黒木華さんが語る「物語のちから」とは。AERA 2024年10月21日号より。
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――江戸時代の作家・滝沢(曲亭)馬琴が28年の歳月をかけて書き上げた『南総里見八犬伝』。それぞれが八つの珠を持ち、体に牡丹(ぼたん)のあざのある8人の若者が運命的に出会い、悪を倒すストーリーは、いまもさまざまなエンターテインメントに多大な影響を与えている。映画「八犬伝」は晩年に失明しても物語を綴り続けた馬琴(役所広司)と、彼を支えた息子の嫁・お路(黒木華)らが登場する史実をベースにした「実」のパートと、八犬伝の物語が映像化された「虚」のパートを行き来して描かれる。
役所広司:脚本の段階から虚と実、ふたつの物語のコントラストが心地よく、完成した作品を観てお客さんが実と虚をどのように楽しんでくれるか? 楽しみです。いまの世の中でここまで王道に「正義」を描くのはちょっと怖い部分もあると思いますが、だからこそ曽利文彦監督はいま、この物語をやりたかったのだろうと思います。
――劇中で馬琴は言う。「悪が勝つこともあるこの世の中だからこそ、別の世界を読者に味わってもらいたい」「不正義がまかり通るこんな世の中だからこそ、物語が必要だ」────。
黒木華:いまはいろいろなことが起きているし、「正義が勝つ」とシンプルに信じきれない時代ですよね。そのなかで八犬士が戦い、最後に正義が勝つという姿は私たちに力をくれるし、願いでもあるのかなと思います。
役所:やっぱり悪が得をする世の中ではあってはいけないですからね。
黒木:「この物語を完成させねば」という馬琴さんの強い気持ちをお路は助けるんです。かっこいい人だな、演じさせていただいて光栄だな、と思いました。
役所:お路は息子の嫁ですけど、傍から見るとちょっと危うい関係というか(笑)。馬琴の妻であるお百(寺島しのぶ)がやきもちを焼いたり。何かいい雰囲気があったんだろうなと想像しますね。